各種負担は続く
傷病手当金が「標準報酬日額の3分の2」というのは、制度理解としては正確である。ところが、この言葉は2点の重要な事実を看過している。
第一に、社会保険料は減らない。ほぼ固定である。ここには健康保険、厚生年金が含まれ、40歳以上であれば、さらに、介護保険料が上乗せされる。これらは標準報酬月額ベースで継続され、おおむね、その14~16%程度であり、在職中は会社と折半する。これは、3分の2を乗じる前の金額で計算されるもので、傷病手当金に対する負担の割合はより大きくなる。
第二に、住民税も継続される。健康保険法第62条により傷病手当金は非課税所得と定められているのだが、住民税は前年所得をもとに算出される。現在の収入減とは連動せず、これまで同様に納付しなければならない。
そうしたことを加味すると、実態はこういうことである。概算にして以下の通りとなる。
・社会保険:▲7.5%
・住民税:▲5~10%
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・実質手取り:約50%(あるいはそれ以下)
計算をわかりやすくするために、月額給与(標準報酬月額)を30万円とすると、支給される傷病手当金はその3分の2だから、20万円である。そこから社会保険料(仮に健康保険7500円、厚生年金約1万3500円とする)合計約2万1000円、住民税約2万円、医療費を安く見て約5000円、合計支出4万6000円となると、手元には、約15.4万円しかのこらないことになる。
条件によっては、受け取り額はさらに減る。たとえば、前年高収入を得た結果今年度の住民税が高い、健康保険・年金を全額自己納付(会社立替なし)といった場合だ。通院の回数が増えていたり、家賃の負担があったりすれば、さらなる出費を余儀なくされる。
傷病手当金20万円から支払う分が例えば、社会保険料約2.5万円、住民税約3万円、医療費約1万円、家賃を低く見積もって約6万円とすると、合計支出が約12.5万となる。手元には、わずか7.5万円しか残らなくなる。
「3分の2もらえる」という言葉からは想像しにくいが、生活はこれまでのものより厳しいものとなる。貯金を取り崩すことも考えることになるかもしれない。
総じていえば、「傷病手当金は給与の3分の2もらえる」から「安心」とか「大丈夫」という訳では必ずしもないということである。実態は、「生活費の大半が消えていき、貯金を取り崩す必要も生じる状態」である。
「給与の3分の2」という言葉だけを字義通り捉えて、楽観バイアスで休職に入ったものの、家計のやりくりが難しくなり、納付書が次々に届いてパニックに陥ることになる。実際に筆者のところにも、金銭を失う衝撃から「そんなこと聞いていない」と苦情を言う患者も珍しくない。
この点は、固定費(家賃・ローンなど)がある人ほど危険であり、扶養家族がいるとさらに厳しくなる。長期化すれば、状況はさらに厳しいものとなろう。
退職すれば、より負担がのしかかる
インターネット上には、退職直前の受診で休職診断書を得て、退職後も傷病手当金を受給するよう誘導しているところもある。「退職給付金」という言葉も飛び交っているが、実際のところ、傷病手当金はそのカテゴリーに属さない。そもそも、「退職給付金」という呼称自体が間違いであり、退職後受給を勧奨する一部の業者が、傷病手当金を指してそう呼んでいるだけである。
端的に言う。退職後、負担はむしろ重くのしかかる。「会社に守られていた仕組み」が外れ、税金・保険は原則すべて“自分で支払う”状態になるからである。
