理念を現場の言葉に変えるスープストック
その実践例として示唆に富むのが、首都圏を中心に展開するスープ専門店「スープストックトーキョー」だ。同社は「世の中の体温をあげる」という理念を掲げ、社員だけでなくパートナーにも、オペレーションだけでなく「なぜそれが大事なのか」というマインドまで共有してきた。
さらに、この理念を日々の行動に落とし込むために、「五感」と呼ばれる行動指針を掲げている。「低投資・高感度」「誠実」「作品性」「主体性」「賞賛」の五つである。
まず「低投資・高感度」。これは、お金をかければ価値が生まれるという発想ではない。限られた資源の中で、どれだけ相手の気持ちに敏感でいられるかを問う言葉だ。
高価な設備や派手な演出がなくても、相手の小さな変化に気づき、少し先回りして声をかける。言葉遣い、店の空気、差し出す一杯の温度にまで心を配る。商いの本質は、予算の多寡ではなく感度の高さにあるという思想である。
これはZ世代にも響く。彼らは大きな号令や抽象論よりも、日々の行動に落ちる具体性に反応するからだ。
次に「誠実」。これは単に真面目であることではない。相手に対して正直であること、自分の仕事に嘘をつかないことだろう。
無理に売り込まない。できないことは「できない」と言う。目の前の顧客にも仲間にも、取り繕わず向き合う。
Z世代は、組織の建前や空疎なスローガンに敏感である。言っていることとやっていることが違えば、すぐに見抜く。だからこそ誠実という価値観は、彼らと信頼関係を築く土台になる。
人は「やらされ仕事」では育たない
三つ目は「作品性」。ここがスープストックトーキョーらしい。仕事を単なる作業で終わらせず、自分たちの手から生まれるものを「作品」として捉える。提供するスープも、店づくりも、接客の一言も、どこかに自分たちらしさや美意識が宿るように磨く。
Z世代は、自分の仕事に「自分の色」が乗ることを大切にする傾向がある。言われたことをこなすだけでは充実感を得にくいが、自分の工夫や感性が反映される仕事には強く没入する。作品性とは、仕事に誇りを宿すための言葉でもある。
四つ目は「主体性」。これは、上から言われる前に動くという意味だけではない。理念に照らして自分の頭で考え、判断し、行動することだ。
指示待ちを責めるのではなく、「自分で考えてよい」という余白を渡す。ここがなければ、どれだけ理念を語っても現場は硬直する。
Z世代にとって主体性は重要だが、それは放任を望んでいるという意味ではない。何を大切にすべきかが見え、その上で自分の判断が尊重される環境でこそ、主体性は育つ。
