2024年11月24日(日)

オトナの教養 週末の一冊

2014年7月24日

――水産資源といえば、昨年末には食品偽装の問題もありました。

小松:シバエビを使用していると謳っておきながら、実はバナメイエビを使っていたというニセの表記問題がありました。エビ全体では、国産が2万トン、輸入品を合わせると約30万トンの供給量で、そのうちシバエビは1200トンしかないんです。こういった情報を役所などがわかりやすく提供していれば、消費者もシバエビの数と値段を考えればそんなにたくさんのお店でしかも安価に提供することは難しいとすぐにわかるはずです。

 資源について消費者にわかりやすく訴えるためには、たとえば、アメリカのスーパーマーケットでは、信号機カラーで魚の資源状態を表示しています。それを参考に私が作成した信号表示の「消費者の購入目安」図があります。

 これを見ると、基本的にクロマグロやウナギは食べてはいけないことになる。こうした情報を役所が積極的に出さなければいけないし、消費者も魚を食べ続けたいならば求めないといけないと思うんですね。

――3月末には調査捕鯨中止の判決が国際司法裁判所で下されました。

小松:もともと国際捕鯨委員会(以下、IWC)が1982年に資源保護を理由に、商業捕鯨の一時停止を採択しました。これに対し、日本は資源が豊富な種もいることから、IWCへ商業捕鯨の一時停止の解除と捕鯨の再開を要求してきました。また日本はクジラの資源量や生態を調べるために調査捕鯨を87年から南極海で、94年から北大西洋で実施してきました。

 今回の国際司法裁判所での判決は奇妙と言わざるを得ません。日本が調査捕鯨のために必要だと主張している捕鯨枠の頭数を実際には獲っていないんです。つまり、獲り過ぎならばわかりますが、獲らなさ過ぎで利益も出ていないのに、日本の調査捕鯨には商業性があると判断されたのですね。また、南極海には豊富な資源があるにも関わらず、国際捕鯨取締条約の目的と条項に反して設定され、いまだに撤廃されていない商業捕鯨の一時停止を適用している。これはどう見ても条約と科学に反している。

 それにもかかわらず、日本政府は判決を尊重するとのコメントを発表しました。この捕鯨裁判の一件でも、衰退する日本のやる気のなさがあらわれた気がします。
 

小松正之(こまつ・まさゆき)
1953年岩手県生まれ。米エール大学経営学大学院卒。経営学修士(MBA)、東京大学農学博士号取得。1977年水産庁に入庁後、資源管理部参事官、漁場資源課課長などを歴任。国際捕鯨委員会、ワシントン条約、国連食糧農業機関などの国際会議に出席し、水産業の発展に従事。2005年、米ニューズウィーク誌「世界が尊敬する日本人100人」に選ばれる。著書に『日本の食卓から魚が消える日』(日本経済新聞出版社)、『海は誰のものか』(マガジンランド)ほか多数。

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