老いとは何なのか
作品の妙は、どこまでが妄想で、どこからが現実なのかを見る者にあれこれ想像させるところだ。例えば、60万円弱の学費が払えない歩美に金を貸してやる儀助の振る舞いは本当のようだが、300万円が引き落とされた預金通帳がチラッと映る。これほどの額を貸すだろうか。これも夢の出来事ではないか、と思わせる。
誰かの囁き、自分の物言いが耳の奥で入り乱れ、時に深く、時に浅い数々の記憶と目の前の老いという現実が老人の自意識を行き来する。
ある種の70代後半の心理とはこんなものなのか。本当はどうなのか。老いは敵なのか、めくるめく体験なのか。そんなことを考えさせる良作だった。
脚本、演出のみならず音楽、キャスティングもいい『敵』は、第37回東京国際映画祭東京グランプリ、最優秀監督賞、最優秀男優賞、第18回アジア・フィルム・アワード監督賞、第80回毎日映画コンクール日本映画大賞、第76回芸術選奨文部科学大臣賞映画部門(吉田大八)などを受賞している。
