中国としては、事態の変化に応じて対応を微調整していく必要があり、そのような観点から、「民間企業」による軍事関連情報の販売は、中国の実質的関与を維持しながら公式には関与を否定するという「曖昧戦略」をとる上で、極めて好都合なのである。ホワイトハウスは停戦協議の開始に対する中国の関与を認めているが、紛争の早期終結を望む米国に対し、これを阻む手段を中国が持っていることは、中国が望む方向での協議に米国を促す上で一定の圧力として機能させることも可能だろう。
米国の技術も力を発揮
以上に見るように、国家安全保障にかかるインテリジェンスはもはや国家の独占ではなくなりつつあるが、その背景にはAIの発達だけではなく、インターネットの普及や通信技術の高度化等による、非国家主体のオープンソース・インテリジェンス(OSINT)能力の高まりという、近年のインテリジェンス環境に見られる大きな変化がある。
2014年のマレーシア航空MH17便がウクライナ東部で墜落し乗客乗員298人が死亡した事件で、OSINTを主眼とするオランダの調査機関Bellingcatが、公開情報のみを使って、当時ロシアからウクライナに移送されたミサイルシステムが、ミサイル1発を喪失した状態でロシアに帰還したことなどを突き止め、ロシアの仕業であることを証拠づけた例がある。オランダを中心とする合同捜査チームが19年に容疑者を起訴する過程で、Bellingcatの調査結果は重要な役割を果たした。
またウクライナ戦争においては、民間企業であるスペースXが提供するStarlinkが事実上、ウクライナが戦闘を続ける上で死活的に重要な役割を果たしている。最近では、2月からロシア軍のアクセスが遮断された結果、ロシアによるミサイル攻撃の数が減少しており、Starlinkの役割が改めて強く認識された。
イラン戦争の関係では、米国のAI企業Palantir、Anthropicが提供する意思決定支援システム(AI DSS)が米国のイラン攻撃において死活的に重要な役割を果たしている。
今日においても国家のインテリジェンス能力の優位性は変わらない。しかしながら、特にOSINTにおける民間部門の役割は年々大きくなっており、このような変化を踏まえた上で国家のインテリジェンス能力向上に向けた体制を構築することが求められている。
