事実上空文化した憲法
戦争に関しては、大統領を軍の最高司令官と位置付けて有事の際に大きな権限を与えるものの、宣戦布告の権限や陸海軍の編成・維持権を連邦議会に与えることで、大統領の独断的な行動を制度的に抑制しようとした。だが、この憲法の規定は事実上空文化している。
米国の歴史上、数多くの武力行使がなされてきたが、連邦議会がこれまで宣戦布告を行ったのは米英戦争、米墨戦争、米西戦争、第一次世界大戦、第二次世界大戦という五つの戦争についてのみである(なお、例えば第二次世界大戦の際には、日本、ドイツ、イタリアなどに対してそれぞれ宣戦布告がなされているので、宣戦布告が決議された数は11である)。
第二次世界大戦後に行われた戦争、例えばベトナム戦争や湾岸戦争、イラク戦争などに関しても宣戦布告がなされないままに軍隊が派遣されている。合衆国憲法制定時とは違い、高度な航空機やミサイルなどが存在して早急な決断が求められるようになった現状では、やむを得ないところもあると言えるだろう。
もちろん、この状態に対する反省もある。73年の戦争権限法は、ベトナム戦争期にリンドン・ジョンソン大統領とリチャード・ニクソン大統領の権限が肥大化して「帝王的大統領」と称されるほどの事態となったことへの反省から制定された。
この法律は第2条で、大統領が軍を投入できる場合を、①連邦議会による宣戦布告、②法律による授権、③米国やその海外領土・軍隊への攻撃によって生じた国家緊急事態の三つに限定する。同盟国などへの攻撃への対応も認められていない。
そして、軍投入前の議会との協議(第3条)、軍投入後48時間以内の下院議長と上院仮議長への報告(第4条)、そして議会の承認がなければ60日以内に軍事行動を停止する義務(第5条)を課している。連邦議会による宣戦布告、授権がない軍の投入については、連邦議会の上下両院が撤退するよう、同一内容で決議を行った場合には、ただちに撤退しなければならないとも定められている。
これは、合衆国憲法の規定が実質的に守られていない現状の中で、その理念をできるだけ守ろうとする試みと位置付けることができるだろう。
なぜ戦争権限法は厳密に執行されないのか
だが、この戦争権限法も、その規定が厳密に執行されたことはない。この法の形骸化の背景には、連邦議会議員の政治的計算が存在する。
大半の議員にとって最優先事項は選挙での再選であり、地元の有権者に直接的・短期的な利益をもたらさない戦争への関与は、政治的リスクが高いと見なされがちである。そのため、議会が宣戦布告や大統領への授権を行って責任を負うよりも、大統領に軍事行動をさせておいて、作戦が失敗したり長期化したりした場合にその責任を追及する方が得策だと考える傾向がある。また、戦争権限法違反を問う訴訟がなされた場合でも、連邦最高裁判所はその事件を積極的に取り上げることはなく、事実上容認している。
