2026年5月2日(土)

キーワードから学ぶアメリカ

2026年5月2日

歴史的先例と常態化する大統領の「独断」

 大統領が議会の承認なしに軍事力を行使する事態は、特定の政権に限った話ではなく、党派を超えて常態化している。例えば、90年代には民主党のビル・クリントン大統領はバルカン半島で空爆を実施した。11年に民主党のバラク・オバマ大統領は、議会の許可を得ずにリビアへの空爆を指示した。

 その際、地上部隊は派遣しておらず、空爆のみの限定的な行動であるため戦争権限法の適用外だと主張し、同法を事実上骨抜きにする先例を作った。この論理は、地上作戦を展開していない今回のイラン攻撃にも適用可能かもしれない。

 同様に、ジョー・バイデン政権もイエメンの武装組織フーシ派やシリアへの攻撃を行っている。トランプ大統領も、第一期政権下の20年に議会の承認なしにイランのソレイマニ司令官殺害を命じた。

 二大政党の歴代大統領は合衆国憲法第2条に定める最高司令官としての権限を盾に、このような独断を繰り返している。大統領が合衆国憲法の制定者が想定した範囲をはるかに超える強大な権限を行使している現状を、連邦議会と連邦裁判所は事実上黙認しており、権力分立で想定された抑制と均衡は機能していない。この権力分立の形骸化は、単に憲法や戦争権限法の条文が不完全であるという問題だけでなく、連邦議会議員の責任回避などの政治的計算に根差す課題である。

 安全保障の実現のためには、時に指導者が法的な枠組みを超えた迅速な決断を下す必要性があるという主張も一理あるかもしれない。だが、指導者が危機的状況だと宣言すれば、憲法や法律の規定にかかわらず何でもできるという状況が許されるべきではない。

 危機における指導者の権限と、法の支配に基づく統制とのバランスをどう取るかという問いは、米国だけの問題ではない。この米国の事例は、自国の安全保障のあり方や、危機的事態における政治と法の関係について検討する上での重要な示唆を与えているといえるだろう。

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