2026年5月8日(金)

プーチンのロシア

2026年5月8日

 マスレニンコフ副書記の発言は、国家安全保障会議の広報経由で発信されたとみられ、ロシア政府がそのメッセージを拡散させたい意図が強く伺えた。中東情勢の急変を受けて、ロシアは自国の優位性を最大限に高める動きを加速している。

相次ぐ対ロ接近

 そのような中、原油の備蓄量が少ない東南アジア諸国は、ロシアとの接近を強めている。米国が、ロシア産原油の輸入を各国に容認する姿勢に転じる中、インドネシアやフィリピンは原油輸入量の引き上げでロシアと合意し、タイもロシアを訪問し、化学肥料の調達を強化する方針と報じられている。エネルギーを求めて各国が対ロ接近に舵を切る中、ロシアはさらに次の手として食料問題を取り上げた格好だ。

 5月には、米国のトランプ大統領が訪中した直後に、プーチン大統領が中国を訪問するとみられる。米中間でどのような会談が行われるかは依然として見通せないが、プーチン氏はエネルギー、食料輸出の双方で中国に協力を持ちかけることで、首脳会談における自国の立場を高める可能性が高い。

 ウクライナ侵攻が4年を超え、終戦の見通しが立たない中、ロシアは中国からの協力の継続を確保しなくてはならない。さらに、ウクライナ侵攻が続いていることを足元に見られて、原油などを中国に安く買いたたかれる事態は避けなくてはならない。

アフリカを恫喝か

 ただ、食料をめぐる今回のロシアの動きは単に輸入国の便宜を図るためだけにあるものではない。むしろロシアはこれまでも、穀物輸出を様々な角度で自国の影響力を高めるための武器にしてきた。

 「プーチン大統領は南アフリカ大統領との食料安保をめぐる協議において、アフリカ諸国に対して大量の穀物と肥料を送る準備があり、一部は〝無料〟で送る準備もあると伝えた」

 2023年5月、ウクライナ侵攻が始まってから約1年後、ロシアに対し武器支援していた疑いが強まっていた南アフリカのラマポーザ大統領と電話会談を行い、食料危機が進行していたアフリカに対し、穀物供給を約束する姿勢を見せた。

 当時、食料危機が起きた背景にあったのはロシアによるウクライナ侵攻にほかならなかった。小麦や大麦の世界的な生産国であるウクライナは、南岸の黒海経由で主に中東やアフリカなど新興国に対し輸出されてきたが、ロシア海軍により黒海が封鎖され、さらにウクライナ南部への攻撃が黒海海上から行われるようになったことから、ウクライナからの穀物輸出が著しく困難になった。その上、マリウポリなどの主要港を制圧し、さらに農地の占領や地雷の敷設を進めた。

 ロシアによるウクライナ侵攻は、ウクライナ産の穀物を輸入してきた中東やアフリカ諸国を危機的状況に陥れたが、プーチン氏は逆に、ロシアに経済制裁を科す西側諸国を批判し、ロシアはアフリカに穀物を供給する姿勢をアピールした。食料という命綱を握られたアフリカ諸国はロシアを批判することは困難で、事実上の恫喝だといえる。さらにロシアはアフリカ諸国を自国の陣営に引き寄せることで、国連での決議などにおいて各国がロシアを批判する決議などに同意しにくくしている側面がある。

 ただ、このようなロシアの姿勢は、食料供給元としてのロシアに対する信頼性を強く損なわせる。欧州からは「食料を〝脅迫の道具〟として使っている」との声が上がった。


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