2026年7月22日(水)

台湾「麗しの島」の実像

2026年7月22日

〝覇者〟たちが見据える
フィジカルAI

 毎年、台湾を挙げてのこの見本市で最も注目されるのが、米エヌビディアの最高経営責任者(CEO)、ジェンスン・ファン氏の存在だ。台南市出身で幼い頃米国に渡り、世界最大規模の企業トップに上り詰めた同氏はまさに台湾の夢の体現者であり、スーパースターでもある。ファン氏の基調演説はコンサートホールで行われるが、毎年満員となる盛況ぶりだ。

各社の基調講演には世界各国からメディアが集まり、最新技術や戦略の発表に熱い視線が注がれた(WEDGE以下同)
世界的企業のCEOが行う基調演説には、各国から多くの聴衆が集まっていた
大きなNVIDIAのブースが目を惹いた(SACHIKO HIJIKATA)
取引先企業のブースにエヌビディアのジェンスン・ファン氏が姿を見せると、あっという間に人だかりができ、会場内の通路は身動きが取れなくなった。皆がカメラを掲げ、その人気ぶりはまるでアイドルのようだった(WEDGE以下同)

 今年はNVIDIA GTCという有料のセミナーシリーズも開催し、多くの発表を行ったが、中でも注目を集めたのが、データセンター向け次世代AIコンピューティング基盤「ベラ・ルービン」が量産を本格化したことだ。

 この製品によってコンピューターの司令塔となる中央演算処理装置(CPU)、AIや画像処理を担う画像処理装置(GPU)、ネットワーク機器などを一体化し、膨大な計算処理を支えることが可能になる。また、ファン氏は台湾に1500億ドル規模の投資を行い、エヌビディアの新社屋を建設することも発表した。まさに台湾をAI革命の中心地とする明確な意思の表れとも言える。

 さらに、PC市場への本格参入も打ち出した。新たなPC向け半導体「RTX Spark」を搭載したモデルが今秋以降、各社から発売されることを発表し、クラウドに頼らず手元で数十億パラメーター規模の処理を可能にする「ローカルAIエージェント」の実現を目指す。

NVIDIA GTCで来場者に配布されたノベルティー。手に持つのは「Open Claw」のシンボル  もっとも、業界全体の関心は「AI PC」そのものからさらに先へ移りつつある。2年前のコンピューテックスのテーマは、まさに「AI PC」であり、各社が演算処理速度の速い神経回路処理ユニット(NPU)の性能競争を行っていた

 しかし、26年現在、業界のキーワードは「フィジカルAI」だ。フィジカルAIとは、AIが「物理的な身体」を伴って自律的に行動するための技術を指す。具体的には自動運転、ドローンや産業用ロボティクス、そしてヒューマノイドロボットだ。その実現には膨大な計算処理を支えるデータセンターが不可欠なため、その性能を左右するCPUが改めて注目されている。

 米インテルでは新CEO、リップブー・タン氏の基調演説を行った。タン氏はマレーシア出身でインテル初のアジア系CEOとして注目を浴びるが、AI向けにCPU需要が高まるなかで同社の株価は大きく上昇している。同社は最先端の「Intel 18A」プロセスを採用した次世代CPUを複数発表したが、PC向けのインテルコアシリーズでは廉価版と上級版で差別化を明確にした。またデータセンター向けの「Intel Xeon 6+CPU」はエージェントAIやクラウドネイティブ向けに前世代比で最大2.5倍の性能向上を実現したものとの説明もあった。

 同様に米クアルコムのクリスチアーノ・アモンCEOは26年を「AIエージェント元年とする」と明言し、ユーザーの行動やスケジュールに自律的に対応するAIエージェントが、PC、スマートフォン、ウェアラブルデバイス、車載デバイスなどを統合する次世代コンピューティングのビジョンを語った。クアルコムもまたPC動作に必要な機能(CPU、GPU、メモリー、通信機能など)を1つにまとめた半導体である「Snapdragon C」と共に、データセンター向けの新ブランド「Dragonfly」を発表。端末などのエッジからクラウドデータセンターまで一貫したアーキテクチャーを展開する新たなブランド戦略を展開する、としている。

 エヌビディアのファン氏は会期後に韓国を訪れ、SKハイニックス、ネイバー、斗山などの大手企業とパートナーシップを組み、大規模AIデータセンター構築を行うことも明らかにした。このAIデータセンターは日本にも進出予定だという。

 フィジカルAI実現のためにはこうした企業同士の横のつながりが不可欠であり、例えばエヌビディアは台湾フォックスコンと提携したロボタクシーサービスを28年にも高雄で開始する予定も発表。またインテルはインテルロボティクス部門の台湾での普及を目指している。

 さらにはデータセンター関連企業が今後の伸びが予測される。米マーベルのマット・マーフィーCEOは、「AIスケーリングの未来は接続性に依存する」というテーマの基調演説を行った。コンシューマー向け製品からBtoBに軸足を移して成功を収めたマーベルは、エヌビディアとも親密な関係を築いている。同氏の演説にはファン氏が登壇し、データセンターに不可欠なケーブルやスイッチを供給するマーベルは「次の1兆ドル企業になる」と讃えた。

 AIインフラの進化において、ラック内部の通信等における銅線の限界(銅の壁)を突破するための革新的なシリコン・光通信ソリューションを持つマーベルへの各社の依存度が高くなるだろう、というのがその理由だ。

 このように、各社製品の内容は違えども次世代AI PC向け、そしてAIインフラ構築のためのデータセンター向けの製品、ということでは一致している。そしてフィジカルAIが自動運転、ドローンなどの制御、そしてヒューマノイドに集約される、という予測も共通している。


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