2026年7月28日(火)

台湾「麗しの島」の実像

2026年7月28日

人材の裾野を広げる
第二の半導体都市・高雄

 新竹だけが半導体人材を育む拠点ではない。近年、第二の半導体生産地域として存在感を高めている台湾南部における最大の街が高雄市だ。

 新竹から台湾新幹線で南へ約1時間半。温暖でゆったりとした空気が流れるこの街は、これまで重工業や石油化学産業を擁する台湾有数の工業都市として栄えてきた。だが近年はTSMCの進出を契機に半導体産業の集積が進み、新たな先端科学産業都市へと大きく舵を切っている。

 日本台湾交流協会高雄事務所の是枝憲一郎氏は、「すでに新竹だけでは先端半導体人材需要をまかない切れない状況になっています。その受け皿として、高雄市では清華大学や陽明交通大学が分校を設置するなど、人材育成の拠点整備を急いでいます」と話す。

 さらに同市では、市内の高校でも半導体関連企業と連携した半導体関連のカリキュラムを設けることで人材の裾野を広げている。

 高雄市政府教育局長の吳立森氏は「高校生に専門的な半導体工学をそのまま教えるわけではありません。まずは半導体がどのように社会で使われているのかといった身近なテーマから学ぶなど、生徒の理解度に応じて内容を変えています。以前は大学教授が高校で直接教えていましたが、現在は、大学教授がまず高校の物理や化学の教員を指導し、教員が高校生のレベルに合わせて授業を行っています」

 新竹から高雄までの取材を通じて台湾の競争力が、社会全体で人を育てるエコシステムによって支えられていると分かったが、これらは、果たして日本でも応用できるのだろうか。

 「日本でもエコシステムという言葉はよく使われます。しかし、その意味や哲学を本当に理解している人は多くありません」

 そう指摘するのは、国立陽明交通大学電機学院講座教授で半導体原子層加工プロセスに関する教育研究を推進する寒川誠二氏。台湾に4年間居住し、半導体エコシステムの中でイノベーションと高度人材育成の現場を見つめてきた。

寒川氏はNECや産総研、東北大学で研究教育に従事した(SEIJI SAMUKAWA)

 「本質は行政や大学、国立研究所、企業が制度やモノだけで連携しているのではなく、『人』が技術とともにこのエコシステムを循環しているということです」

 産官学の人々が日常的に意見を交わし、そこでアイデア共有することで、新たなイノベーション(技術や産業)が生まれている。

 ただ、この仕組みが機能する根底には、「経世済民」の哲学があると寒川氏は強調する。「経済」の語源でもある経世済民とは、「世を治め、民を救う」という意味だ。経済とは一部の企業や個人が利益を得るためではなく、人々が助け合い、社会全体が豊かになるためにあるという考え方で、「エコノミー」とは意味が異なる。台湾では、この価値観が社会全体に共有されているからこそ、各組織内だけの利益追求に陥ることのない、真の連携につながっているという。

 だからこそ、大学や企業、研究機関を一カ所に集めるだけでは〝エコシステム〟は機能しない。もっとも、寒川氏は日本に可能性がないとは考えていない。

 「儒教的倫理観を持っていた江戸時代の日本にも、人を育て、社会全体の利益につなげようとする精神は確かに存在していました。その哲学を現代の社会構造の中でどう取り戻すかが問われています」

 台湾から学ぶべきは、制度そのものではない。その根底にある「人を育て、社会を豊かにする」という思いを理解し、実践できる社会を築くことなのではないだろうか。

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Wedge 2026年7月号より
エネルギー依存国家・日本 持たざる「弱み」を「力」に変えよ
エネルギー依存国家・日本 持たざる「弱み」を「力」に変えよ

ホルムズ海峡の事実上の封鎖により、世界のエネルギー情勢に激震が走った。日本はこれまで気候変動対策や脱炭素をより重視する姿勢を貫いてきた。しかし、従来の「前提」を根底から見直す局面に立たされている。また、各地で原発の再稼働が進みつつあるが、「核燃料サイクル」実現を進めていくうえで、課題は山積している。だが、思考停止に陥ってしまえばこの現状を打破することはできない。今こそ、日本は「ひよわな花」であることを自覚し、持たざる「弱み」を「力」に変えていく時だ。

 


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