2026年8月4日(火)

プーチンのロシア

2026年8月4日

 カシン氏は国内外で知られる人物であり、論文は国際情勢を論じる著名な専門誌に掲載された。このような動きが、政権の了解を得ないで行われたとは考えにくく、カシン氏の意見は、ロシアの上層部においても一定程度共有された見方だと考える必要がある。

激化するウクライナ都市部への弾道ミサイル攻撃

 ただ、プーチン氏が妥協する可能性は極めて低い。戦争を開始したのはプーチン氏の判断であり、50万人を超える国民の犠牲を払った上で勝利したと言い切れる形を示すことができなければ、政権の基盤は大きく揺らぐ。独裁国家において政権の基盤が揺らげば、プーチン氏自らもロシア国内で生き延びられるとは考え難い。

 現時点ではまだ、プーチン氏はこの戦争に勝利できると考えている節もある。ドローンによる攻撃で打撃を受けているものの、兵器の生産は加速している。特に隣接する都市部への攻撃に優れる誘導型の滑空爆弾や、長距離からキーウなどに激しい破壊をもたらすことができる弾道ミサイルなどの生産量は拡大している。

 米国が防空用のパトリオット迎撃弾の供給を止め、さらにライセンス供与についても撤回する姿勢を示す中、ウクライナの防空体制は著しく悪化している。今後、厳冬期に向けて再びロシアが都市部への電力施設への攻撃を拡大させれば、従来にない規模の被害が出るのは必至だ。

 さらにウクライナのゼレンスキー大統領は7月27日、自身のSNSでロシアが9月の下院選挙後、30万~50万人規模の新規動員を行う計画だと明かした。計画の存在をめぐっては、ロシアの専門家からも同様の見方が示されており、実施される可能性は高いと見るべきだ。

 先に指摘したように、ロシア軍は兵士の入隊ペースより死傷者の増大ペースの方が上回っており、実施されればその欠員を補充する結果になる。ロシアはすでに、北朝鮮からも3万人規模の新たな兵士の補給を受けるともみられている。

国民はさらなる戦争の痛みを受ける

 カーネギー財団のロシア出身専門家、ガブーエフ氏によれば、新たな動員をめぐってはプーチン氏が自ら会見するなどして社会的不安を強めた22年の動員とは異なり、オンラインツールを使い“極めて静かに”実施される見通しという。ロシアにおいてはネット上の個人情報は当局が徹底的に調べているとみるのが自然で、ネット上で把握されれば当局の目をかいくぐって国外に逃亡することなどは困難だ。

 ただ、それはプーチン氏がすでに、達成が困難な戦略目標のために国民の命を湯水のように使うという“麻薬”ともいえる作戦に手を染めた事実を鮮明にする。

 経済は低迷してもまわっており、ロシア国民の多くはまだ戦争の痛みを本格的には感じていない。だが、独裁国家の本当の恐ろしさを彼らが本格的に知ることになるのは、決して遠い未来ではないといえそうだ。

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