2026年9月3日(木)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2026年9月3日

「血と汗の金を返せ」

「還我血汗銭(血と汗で稼いだ金を返せ)」

 21年9月、深圳の恒大集団本社前で抗議集会が行われ、このシュプレヒコールがこだました。恒大は自社の資産運用会社「恒大財富」を通じて投資商品を販売し、集めた資金を不動産開発に還流させていた。

 この償還が滞ったことが発覚し、抗議集会に発展したのだ。2000年代の中国ではありふれた光景だが、習近平時代では極めて異例の事態だ。

 恒大集団は中国トップクラスの民間不動産デベロッパーとして、2010年代に大きく成長した。そのビジネスモデルは「高負債・高杠桿(レバレッジ)・高周転(回転)」と賞されていた。

 文字の意味をとれば、金をかきあつめて資産を膨らませていく拡大型の経営となる。かき集めた金で土地を仕入れ、それを速攻で売りさばき、次の土地仕入れに回す……この循環をどれだけスピーディーに回せるかが勝負だ。

 中国の住宅は予約販売制で、完成前に販売することができる。平均すると完成の1~2年前に販売契約が行われる。売ってしまえば、後はゆっくり作っても問題ない。

 というわけで、ゆっくり作っているうちに不動産市場が低迷し、デベロッパーが資金難に陥ったあげくに、建設がストップした「爛尾楼」(ランウェイロウ、建設途中で工事がストップした建物。尾が潰れたヘビから転じてこの名称がつけられた)が大量に生み出される。

恒大集団のえげつなさ

 債務をひたすらに増やし、バランスシートを拡大していく経営スタイルは、恒大集団だけのものではない。2010年代の中国民間不動産デベロッパーはだいたい似たような戦略を取っていたが、恒大集団が異彩を放っていたのは負債拡大の手法のえげつなさゆえだ。

 抗議集会につながった金融商品販売に加え、下請けへの支払いを数年単位で引き延ばすといったことが日常的に行われていた。具体的な手口はこうだ。

 恒大集団が負債を膨らませた主なルートは、銀行融資や社債発行ではない。下請け業者や建材サプライヤーへの支払いを、意図的に遅らせることだった。住宅を売った代金は即座に回収する一方、下請けへの支払いは限界まで先延ばしする。この時間差で生まれた資金で、次の建設プロジェクトに着手するのだ。中国の不動産業界では「どれだけ支払いを遅らせられるかが、会計担当者の腕のみせどころ」とさえ言われていた。


新着記事

»もっと見る