2026年9月3日(木)

脱「ゼロリスク信仰」へのススメ

2026年9月3日

 これは多くの人が免疫を持たない「新型」株が海外から侵入したという特殊なケースであり、毎年少しずつ姿を変えて流行する通常の季節性インフルエンザとは性質が異なる。とはいえ「全国規模の夏の流行」という事実そのものは、新型コロナのはるか以前、09年の時点ですでに起きていたことになる。

 さらに直近で見ても、23/24シーズンは前シーズンの流行が異例に長引き、例年なら11〜12月頃にようやく定点あたり1人に達するところ、9月の時点ですでに4.48人という高い水準にあった。24/25シーズンも「過去最高レベルの急激な立ち上がり」と評された。つまりここ数年、日本のインフルエンザは「季節外れ・早期・長期化」という傾向を毎年少しずつ強めてきており、26年8月の流行はその延長線上にある出来事とも言える。

語られている理由

 夏の流行について、エアコンで締め切った室内は換気が悪くウイルスが滞留しやすい、南半球が冬である今の時期は海外からウイルスが持ち込まれやすい、夏休みで人の移動や会食の機会が増えるといった説明が、メディアなどではされている。

 しかし、これらの条件はどれも今年に限ったものではない。エアコンは毎年動いているし、南半球との往来もここ数年変わらず存在し、夏休みの帰省や旅行も毎年恒例の出来事である。

 「毎年ある条件」だけを並べても、「なぜ他の年ではなく今年、しかも平年の3倍という規模で起きたのか」「なぜ沖縄と東北という特定の2地域が先行したのか」には答えられない。これらは流行が起こり得る「土壌」の説明であって、今回の流行そのものの原因の説明にはなっていない。

 一段踏み込んだ説明として、新型コロナウイルス流行後の「免疫ギャップ説」がある。日本感染症学会の提言(25年1月)は、コロナ後の急激な流行拡大の背景として、インフルエンザに対する抗体保有率が全体で30%未満まで下がっており、これはコロナ禍以前と比べて明らかに低い水準だと指摘している。20〜22年のマスク着用や行動制限、水際対策によってインフルエンザの流行そのものが数年間ほぼ抑え込まれた結果、本来なら毎年の感染や接触で更新されるはずの集団免疫が積み増されないまま、数年分不足してしまったという説明である。

 この免疫ギャップは、コロナ収束後も一度に解消されるものではなく、数年かけて少しずつ埋まっていく。だから、「なぜここ数年、季節外れの流行が繰り返し起きているのか」への説明としては筋が通っている。

以前の夏の流行はどう説明するのか

 しかし、ここで立ち止まる必要がある。新型コロナの免疫ギャップ説は、あくまで23年以降の「例年より早く、大きな流行」という部分の説明にはなり得ても、そもそも沖縄が05年という新型コロナのずっと前から夏に流行してきたという事実、そして09年には全国規模の夏の流行がすでに起きていたという事実には触れていない。

 つまり、今回の流行には少なくとも性質の異なる2つの謎が重なっている。ひとつは「そもそもなぜ夏にインフルエンザが流行し得るのか」という、コロナとは無関係に以前から存在する謎であり、もうひとつは「なぜここ数年、その夏の流行が全国規模にまで拡大しているのか」という、比較的新しい謎である。


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