2026年9月7日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2026年9月7日

 これに対し、プーチンを取り巻く情報機関や軍を中心とする最側近のエリート層は、ウォラー氏の論文も指摘しているのだが、すでにほとんどがプーチンと同様の70歳代だ。よって、プーチンが去った場合には、これら70歳代の側近グループの後釜を狙っていた50代~60代の幹部(国家評議会書記のデュミン、ミシュスチン首相など)だけではなく、側近グループの親族でさらに若い30~40代の世代(パトルシェフ元FSB長官の子息など)という二つのグループが存在することになり、より大きな紛争と不安定化に繋がっていく、ということだ。

 この見方に基本的に賛同するが、スターリン死後と今との違いはこれだけではない。

今やなき組織的正当性

 中でも大きな違いは、スターリン時代には「ソ連共産党」という強固な組織とイデオロギーが存在していたことだ。確かにスターリンも、後継者決定プロセスを制度化することはしなかった。ただそれでも「ソ連共産党」のイデオロギーと、党大会、中央委員会総会などの組織的な意思決定のシステムは存在していた。

 後継者の地位を勝ち取ったフルシチョフも、あくまでソ連共産党の意思決定プロセスに則って、中央委員会総会の決定という形で権力を掌握した。これは手続き論かもしれないが、権力の正当性という観点からは重要な意味がある。

 ところがプーチンの場合、憲法に、大統領が執務不能になった場合は首相が臨時代行を務め、「3カ月以内に大統領選挙を行う」という規定があるだけで、後継者の選定に実質的な決定権をもつ側近グループ内の意思決定のルールが存在しない。

 側近グループはプーチンへの忠誠心だけで固まっていたのだから当然なのだが、このことは、後継者となる人物に手続き的な正当性を付与する仕組みが存在しないことを意味する。権力闘争はあからさまな力により、かつスターリン死後よりもさらに予見困難な状況になる可能性がある。

 もう一つ、ウォラー氏は、「プーチン後」の混乱と不安定化について述べているが、それが「いつ、どのような形で来るか」の見通しを述べていない。

 昨今、「プーチン後」を語る多くの論者が「ウクライナ戦争の終り方」と大統領としてのプーチンの運命を関連づけ、「ウクライナ戦争の失敗」=「プーチンの失脚」を前提とした議論を展開している。これに対し、本論文でウォラー氏は両者を関連づける議論をしておらず、あくまでもプーチンが去ったあとの状況について述べている。 


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