2026年9月16日(水)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2026年9月16日

自動化すると、どう変わるのか?

 では、既存の自動化にAIが組み込まれると、どのような改善が見込めるのだろうか。

「これまでのオートメーションはルールベースで動作し、設定された動作を繰り返すもの。フィジカルAIは対象や状況に応じて自ら判断して動作を変更することができる。チェルビック・ベンチャーズが出資した米国のフィジカルAIスタートアップ、Sudo AI(評価額は約20億ドル)はゼロショット汎化(学習時に扱っていない物体にも、追加学習や物体ごとの調整なしで対応する能力)での動作を目指している。テキストでコップと言えば一つの単語だが、現実世界のコップは色も形も材質も違う。それに対応できるようなフィジカルAIを目指している」(マット)

 マットには印象的なエピソードがあるという。Sudo AIは7月、中国・上海市で開催された世界人工知能大会(WAIC)に出展し、デモを披露した。最終日になって急にデモの内容を変更することになった。

 普通のロボット企業ならば環境が変わればデモはできないと断るだろう。だが、Sudo AIは違った。特に事前に学習させる必要もなく、デモを完遂したという。

 こうした技術が発展していけば、製造業は大きく変化する。生産ライン立ち上げに細かな準備をしなくとも製造機械が自律的に判断し、新たなプロダクトを作る作業を始められるようになるかもしれない。

「ある日本企業からユニークなアイデアを聞いた。同社は工場を持たないファブレス企業だが、フィジカルAIが発展すれば他社に製造を委託せずとも、ロボットに指示するだけで自社工場を持てるのではないかというものだ。現在はコストの観点から製造を外注しているが、機密情報漏洩のリスクはどうしてもつきまとう。フィジカルAIならば、低コストで自社工場を保有し、技術を守れるとの期待がある」

“無敵”の中国とその弱点

 日米のフィジカルAIの違いはよくわかった。だが、本当に日本は「主役」たりうるのだろうか? つまり、フィジカルに強みを持つ日本とAIに強みを持つ米国のどちらが優位に立つのだろうか。

「私は日本にチャンスがあると考えている。そもそも、大規模言語モデル(LLM)でなぜオープンAIやアンソロピックはこれほどの価値を持つのか。優れたモデルを生み出したからだけではない。インターネット上には、テキストや画像などデジタル世界のデータが大量に蓄積されていた。モデルが人間の考え方や仕事の進め方を学ぶための基盤が、すでに存在していたからだ。

 フィジカルAIでも、データが重要であることは変わらない。ただし、ロボットが必要とする物体の形状や力加減、周囲の環境といったデータは、インターネットから簡単に集めることができない。誰が現実世界のデータを集め、あるいはシミュレーションによって作り出せるかが勝負を決める。私は日本の官僚や大企業のフィジカルAI担当者とも議論しているが、彼らもデータの重要性を認識している。これが日本にチャンスがあると考える理由だ」(マット)

 現実世界の多様な条件をどれだけ広くデータでカバーできるかが勝負を分ける。もしそうならば、最も強いのは中国ではないか。中国は世界最大の製造業大国であり、製造現場も多い。産業用ロボットでも中国メーカーの台頭が著しく、2024年には中国市場での販売シェアが57%に達して外資系メーカーを初めて上回り、25年には輸出額が輸入額を初めて上回った。また、スマートシティ化が進み、都市空間から多様なデータを得られる。

フィジカルAIは中国にとっても好機

 これに対しマットは「中国のチャンスは大きい。製造業だけではなく、スマートシティ化が進み、社会のさまざまな分野で、最も完全なデータセットを持っている。中国から優れたフィジカルAIのイノベーションが生まれることは間違いない」とする。

「ただ、各国が独自のフィジカルAI構築を国家戦略とし地政学的リスクが台頭する中、中国でドミナントになったソリューションが世界を席巻するというシナリオは考えづらい。世界最先端のフィジカルAIは中国で生まれるかもしれない。しかし、世界で広く活用されるフィジカルAIとはならないのではないか。中国以外の国を見れば、日本がフィジカルAIをリードし未来の方向性を定義づける可能性が高いと見ている」


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