「戦えるようになれ、勝てるようになれ」
中国の報道によれば、今回の演習の目的は、習近平指導部が求める実戦能力の向上を図ることにある。日本では、8月15日の終戦記念日、9月11日の日本政府による尖閣諸島購入、9月18日の柳条湖事件等、中国にとって敏感な日が続く時期に演習を実施することについて、日本を牽制する狙いがあると言われるが、中国の報道もまた本音を述べている。
2012年12月、党総書記、党中央軍事委員会主席に就任したばかりの習近平主席は、広州軍区を訪れ講和を行った。講和で用いられた「戦えるようになれ、勝てるようになれ」という言葉は、現在では人民解放軍でスローガンとして繰り返し用いられる。
習主席が、主席就任早々、「戦えるようになれ」と号令しなければならなかったのは、人民解放軍が戦える状態にないからに他ならない。少なくとも、中国指導部はそのように認識している。しかも、指導部と言うのは、習近平指導部だけではない。
胡錦濤前主席は、既に、人民解放軍が戦える状態にないことに危機感を有していた。そして、実際の努力も行っている。2006年6月、人民解放軍全軍軍事訓練会議に出席した胡錦濤は、「厳しい訓練を実施してこそ強軍になる」と述べ、「実戦の必要性から出発し、困難で厳しい訓練を実施せよ」と号令をかけた。
また、「機械化条件下の軍事訓練から情報化条件下の軍事訓練への転換を自覚的、自主的に進めなければならない」とも述べている。指示は「機械化から情報化への転換」に限定しているが、要は、「自分で考えて訓練しろ」と叱っているのだ。そして、胡錦濤は同年10月に「訓練大綱」を発布した。当時の中国メディアは、「人民解放軍の訓練は歴史的転換を遂げた」と報じている。
軍に腐敗を蔓延させた江沢民
胡錦濤が「実戦的な訓練をしろ」と号令をかけなければならない状態に人民解放軍を陥れたのは江沢民だ。中国軍関係者によれば、江沢民が「訓練で死者を出してはならない」と指示したことから、各部隊は、これ幸いと、真剣に訓練をしてこなかったのだという。
江沢民時代は、人民解放軍にも腐敗が蔓延した。江沢民は、軍に自らを支持させる代わりに、厳しいことを言わず、それどころか、汚職増大の土壌を提供したのだ。多くの軍人は、訓練をおろそかにし、不正蓄財に精を出した。当時、中央軍事委員会副主席の座にあった胡錦濤は、この様子に危機感を持ったからこそ、自らが主席になった際に軍を叩き直そうとしたのだ。