原田泰:非常に興味深いですね。一般的に言って、人口は減っているけれども働ける人はもっと減っている。だから人手不足が生じる。ただ、この一般論が正しいとすると、1990年代後半くらいからそういう人口構成になっているので、この20年間人手不足が顕在化しなかったのはなぜかとなる。
これは、介護であれば理由は明らかで、サービスの料金が決まっているからです。人手不足であっても賃金を上げられない。この20年間ずっとベースの経済が良くなかったですから、他の業種で少し景気が良くなればそこで労働力が吸収されてしまう。だから人手不足が顕在化しなかった。
つまり、賃金による調整メカニズムが働いていないんですね。バスも規制業種です。路線は一度獲得したら返上しなくてよい既得権だから、隣のバス会社が攻め入ることは難しい。経済効率が悪い状況が温存されてしまう。
1950年生まれ。経済企画庁国民生活調査課長、同海外調査課長、財務省財務総合政策研究所次長、大和総研専務理事チーフエコノミストなどを経て現職。著書・編書は『若者を見殺しにする日本経済』(ちくま新書)、『徹底分析 アベノミクス』(中央経済社)など。
(写真・松村隆史)
冨山:バス事業は、停留所の変更、ダイヤ改正、整備効率改善など、生産性を上げる余地がたくさんあるんですね。意外と注目されてませんが、サービス産業は企業間の生産性格差がものすごく激しい。完全競争状態とは言えない構図になっています。
ローカル経済圏の産業は、GDPや雇用のおよそ7割を占めています。この経済圏の特性は、「密度の経済性」が効くことです。例えば、岩手県の路線バス会社と宮城県の路線バス会社はまったく競争関係にありません。隣の県のバス会社の生産性が高くても乗れませんから。もちろん路線という規制があることもありますが、いろいろな設備を所有し地域に密着した事業者が既に存在すると、それをひっくり返すのはとても大変なんです。
これは規制業種ではない小売業でも同じで、例えばコンビニエンスストアではドミナント戦略がモノを言う。生産性だけで競争が起きているわけではないんですね。それに加えて規制があると、効率の良い企業と効率の悪い企業が共存することが起きます。