アベノミクスでチャンスが訪れた
編:なぜいま雇用吸収力が出てきたのでしょうか。人口論なのか金融緩和なのかどちらでしょうか。
原田:両方ありますが、重要なのはアベノミクスでしょう。人口構成の変化から長期的には人手不足になる可能性があった。過去20年間、一部の規制部門では起きていたが、全体では起きていなかった。いま全体に広がりつつあるのはアベノミクス効果です。
冨山:アベノミクスは第1の矢、第2の矢まで素晴らしかったと思います。デフレ経済は低血圧のようなものでしたから。それを目覚めさせて本来の力に引き上げ、需給ギャップが埋まってきました。でも、第3の矢になったときに、先祖返りした印象があります。
加工貿易立国の幻想にとらわれたままのターゲッティングポリシーなどはやめて、もっと市場経済をスマートに使うという方向に舵を切るべきです。
編:冨山さんは近著のなかで、ケインズ経済学も新古典派経済学も、ずっと供給過剰と需要不足、つまり労働力が余っている状況に対する政策を議論してきたから、人手不足の時代にはどちらからも解を見出しにくいと指摘されています。市場経済を使うというのはまさに新古典派ではないのですか?
冨山:新古典派の感覚にずれを感じるのは、現実の調整過程に時間がかかる産業があるからです。自由な競争に任せれば市場プレイヤーの合理的選択でお気楽に調整されると思ってしまうと、調整過程において、絶望工場とかブラック企業が跳梁してしまう。本来淘汰されるべき悪貨がしばらく残るんですね。すると、ツアーバスの事故のようなことが起きるわけです。
タクシーも同じですね。規制緩和すると事件が起きて、規制緩和はけしからんと揺り戻しが起きる。この20年、緩和しては戻り、というのを繰り返してきた気がします。
これは、レギュレーションデザインの問題です。ツアーバスで言えば、国土交通省の安全監査の問題。規制緩和して一気にツアーバス会社が数千社増えたときに、監査する人員が増えなかったらどうなるか。全体のカバー率を考えて、大きなバス会社だけ監査に入る。隅っこの小さな会社はお目こぼしになって、事件が起きてしまう。