世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2014年11月11日

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 中東全域での米国の戦争は、どのくらい長く続くかにかかわらず、失敗に終わる。そして失敗に終わった時、その戦争が不必要であったことを知るだろう、と述べています。

(出典:Andrew J. Bacevich ‘Even if we defeat the Islamic State, we’ll still lose the bigger war’(Washington Post Oct.3, 2014)
http://www.washingtonpost.com/opinions/even-if-we-defeat-the-islamic-state-well-still-lose-the-bigger-war/2014/10/03/e8c0585e-4353-11e4-b47c-f5889e061e5f_story.html

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 この論説は、米国の中東への軍事介入に関する手厳しい批判です。政権交代を図っても国造りが容易にできないと指摘している点は、確かに、その通りです。中東の多くの地域では、第一次大戦後、崩壊したオスマントルコ帝国の中東における旧領を英仏などが分割統治し、そのため恣意的に敷いた国境線が、そのまま独立後の中東諸国の国境線となっています。したがって、これら中東諸国のほとんどが、多民族、多部族、多宗派国家であり、統一の維持のためには強力な指導者の下での専制政治が必要でした。サダム・フセイン、カダフィなどが典型的な例であり、これら専制指導者亡き後の国の安定を図るのは困難で、米国が国づくりを楽観視し過ぎていたのは事実です。

 しかし、論説は、米国の従来の中東介入の理由は石油であったと言っていますが、必ずしも、すべての介入が石油のためであったわけではありません。アフガニスタンへの軍事介入は「9.11」同時多発テロへの報復でしたし、カダフィ打倒のためには、産油国であるリビアにも介入し、石油価格上昇のリスクも冒しています。

 米国はもはや中東の石油に頼る必要がなくなったので中東に介入する必要はなくなった、という論説の主張は、いわば、中東に対する孤立主義です。しかし、米国には、大国としての責任というものがあります。中東の重要性は、石油だけではありません。イスラム過激派によるテロの脅威があり、これに対処するため、米国は必要に応じ、大国の責任を果たすために、介入せざるを得ません。

 米国が中東の石油に頼る必要が無くなるという点も、大国としての責任の文脈から考える必要があります。確かに、シェール革命により、米国は石油を自給できるようになるでしょうが、同盟国、友好国の全ての需要まで賄うことは、不可能です。こうした国々は、多かれ少なかれ、引き続き、中東の石油に頼らざるを得ませんから、米国が中東に対する孤立主義的態度をとるとすれば、中東の不安定から大きな打撃を受ける可能性があります。米国が中東に関して傍観的態度を取ることは、大国としての責任を回避することとなり、米国の信頼を深刻に損なう結果になります。

 米国は、中東に軍事介入してもしなくても「敗北」と呼び得る状況に陥りますが、介入せずに大国としての威信を失うという敗北の方が、より深刻と言ってよいでしょう。

  
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