だが世界的なディスインフレ傾向の中で、日銀の物価目標の達成時期は遠ざかりつつあり、その出口も全く視野に入ってこない。安倍政権が掲げる「デフレ・マインド脱却」が達成されるかどうかも、かなり疑わしい。増税見送りという梯子外しに遭った黒田総裁は追加緩和に頑強に抵抗するとの見方もあるが、インフレ率目標達成という自身の面子への呪縛もあり、本格的な株式購入などを含む追加緩和を余儀なくされる可能性は排除できない。
1ドル130円台も
安倍政権の経済政策は、円安誘導と言い換えても良い。今年のドル円も何度かの乱高下を伴いつつも、米国の利上げを横目で見ながら130円台を窺う可能性が高い。「円安・株高」を継続させることが経済政策の軸となるだろう。こうした政策は、競争力強化や生産性向上といった根源的な課題への取り組みを遅延させるリスクを胚胎している。従って中長期的には望ましい方向性とは言い難いが、安倍首相と黒田総裁の方針は変わりそうにない。
今年は1%前後の実質成長率は維持するとしても、輸出企業の優勢と内需型企業の劣勢、株式を保有する富裕層の資産増と一般家計の生活コスト増、不動産投資に沸く都心と疲弊する地方といった歪なコントラストは、一層鮮明になるだろう。
このメイン・シナリオを揺さぶるのが海外要因である。グローバリゼーションの下、日本経済は海外の影響を受けることが増えた。海外のリスク・ファクターを入念にチェックすることは、企業にも個人にも不可欠となった。
とにかく日本に必要なのは規制緩和である。ほんのわずかの間の景気回復期に、この問題に取り組まなければ、真の成長は見込めない。
今年の世界経済像として、一歩間違えればデフレ局面に陥りかねない低空飛行の実体経済を、急変リスクを抱えた資本市場が支える、という極めて脆弱な姿が浮かび上がってくる。不安要素は中国やユーロ圏にもある。予測不能の地政学リスクという厄介な材料も散在する。一部の国のデフォルト懸念を通じて市場が債務問題に敏感になり、債務不安が増税先送りの日本にも押し寄せるシナリオ、即ち国債金利の急上昇も絶対にないとは言えない。
現代経済は、米国の住宅や自動車などに見られるように資本市場が実体経済における需要を膨張させたり縮小させたりする傾向が強まっている。日本経済は、そんな資本システムの中に組み込まれた一部の系なのだ。内外の市場動向は、コンセンサスとなっている経済見通しを大きく狂わせる可能性を秘めていることを、今年もあらためて肝に銘じておくことが必要だろう。
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