中国は、シルクロード構想により、経済、外交、エネルギー、安全保障問題を、貿易促進のためのネットワーク構築の取り組みを通じて結び付けることで、アジアの秩序を、米中間の勢力均衡ではなく中国の覇権に基づくものにしようとしている。民主国家の協調のみが、この戦略を阻止し得る、と述べています。
出典:Brahma Chellaney,‘A Silk Glove for China’s Iron Fist’(Project Syndicate, March 4, 2015)
http://www.project-syndicate.org/commentary/china-silk-road-dominance-by-brahma-chellaney-2015-03
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習近平政権は、2013年秋に「シルクロード経済ベルト」と「21世紀海洋シルクロード」からなる「一帯一路」構想を打ち出し、今年2月には、「一帯一路建設工作指導小組」の初会合が開かれるなど、同構想を精力的に推進しようとしています。
チェラニーは、中国の台頭に強く懸念を抱いているインドの戦略家であり、中国に対抗する必要性を説いた論説をこれまでも数多く発表しています。本論説は、21世紀海洋シルクロード構想の本質は、経済協力を装いつつ中国の地域覇権を求めるものである、と喝破しています。民主国家の協調(具体的言及はありませんが、日米印が中核でしょう)が対抗策になるとの指摘は的を射ています。民主主義の促進が対抗策になり得ることは、スリランカで、中国の支援による港湾建設が腐敗の温床になっているとの批判が高まった結果、選挙で政権交代が起こり、「真珠の首飾り」の一角が崩れたと注目を浴びたことからも明らかです。日米印豪の協力強化、地域における民主主義の促進・支援は、安倍政権が進めている戦略に他なりません。本論説は、日本にとっても歓迎すべきものです。
ただ、中国の意図に対するチェラニーの強い危機感が、インドの指導層によって広く共有されているかどうか今少し注視する必要はあります。インドは中国との間で、国境紛争、インドのライバルであるパキスタンと中国の戦略的友好関係など、対立点がありますが、中国との対決は望んでいません。非同盟の名残も払拭しきれていないでしょう。とはいえ、最終的には、インドが歴史的優位を当然視してきたインド洋で中国が優位を確立することを容認できるとは思われません。
今後、中国は海洋シルクロード構想につき、港湾や交通網、商業施設の建設などの経済的利点を前面に押し出す「平和攻勢」で、インド洋沿岸諸国に参加を呼びかけるでしょう。すでにインドにも参加の勧誘があるとのことですが、いったん参加してしまうと、中国が主導権を取る構想に取り込まれてしまうおそれがあります。この勧誘にどう対応するかは、モディ政権の対中姿勢の試金石となるでしょう。
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