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地域再生のキーワード

2015年5月11日

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磯山友幸 (いそやま・ともゆき)

ジャーナリスト

千葉商科大学教授(4月から)。1987年日本経済新聞社に入社。フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長などを務め、11年に独立。著書に『2022年、働き方はこうなる』(PHPビジネス新書)など。

 鮪のトロひと柵をその場で切ってもらって刺身として食べたり、ウニひと箱をスプーンで味わったりする。ふぐを丸ごと一尾買って、「てっさ」と「てっちり」を堪能するという店まである。それぞれの商店が知恵を絞って外国人が「食べたがる」「欲しがる」商品を並べている。店先にテーブルを出したり、店内に飲食できるスペースを新設したりしたお店もある。

黒門市場商店街振興組合の山本善規理事長

 もっとも賑わっているのは午前中。近隣のホテルに宿泊して、朝食を摂らずにやってくる。日本の食文化に直接触れてみたいという好奇心が黒門市場を訪れる外国人には共通している。市場にあるものは何でも、しかも鮮度の高い日本の海産物までその場で味わえるという大胆な仕組みが、バカ受けしているのだ。

 「はじめは外国人が増えたら昔からのお客さんに迷惑がかかるやろって声もあったんです。けど実際に来るようになったら、売らな損やわってことになったんです」

 黒門市場商店街振興組合の山本善規理事長はそう言って笑う。儲かることだったら異論は出ない大阪ならではの実利先行といってよいだろう。山本理事長自身、黒門市場で5代続く漬物店を営むが、「伝統にこだわって客が減ってしまっては元も子もない」と屈託ない。

外国人向けのパンフレット

 本格的に外国人客をターゲットにし始めたのはそう古い話ではない。黒門市場の4~5軒の商店が、大阪ミナミを中心に180近いホテルの客室に置く『エクスプローラー』という情報パンフレットに掲載情報を出し始めたのが数年前。2013年になって大阪市の補助金を原資に「黒門市場特集」のパンフを作成することにした。パンフは日本語だけでなく、中国語、韓国語、英語のものを作った。ちょうどアベノミクスによる円安で増え始めていた外国人旅行者をターゲットにしようと明確に決めたのだ。パンフが完成した13年10月頃から、目に見えて外国人が増えるようになった。

 同時に組合で「食べ歩き」をコンセプトにすることを決めたのだという。「黒門市場全体を巨大なフードコートにしてしまおう」(山本理事長)というわけだ。飲食店できちんと食べる前に、いろいろ試してみようという旅行者心理をとらえた。

 黒門市場は魚介類の販売店が多いが、青果店や菓子店、薬局、衣料品店などもある。当初は外国人が来ても潤わない店があるのではないかと心配したが、杞憂に終わる。青果店の高級いちごが飛ぶように売れ、土産用の菓子も売れるようになった。日本の常備薬や化粧品も大盛況で、衣料品店では「日本製」と大書きした商品から売れていく。日本茶も人気だ。商店街全体が一気に潤ったのである。

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