2024年12月23日(月)

オトナの教養 週末の一冊

2015年5月29日

好奇心の向かう先はまだまだ無限にある

 ブライソンの、人間という生き物への、いやすべての生き物、すべての原子への親愛や驚嘆の感情が言葉一つひとつににじみ出て、「科学すること」を温かく、胸躍るものにしているのには、さすがというほかはない。

 たとえば、こんな一節がある。

 <原子単位で見れば、わたしたちはみんな、おびただしい数から成り、死に際して非常に効率よく再利用されるので、かなり多数の体内の原子――多ければ各人十億個ほど――が、かつてシェイクスピアに属していた可能性もある。さらにもう十億個ずつが、仏陀やチンギス・ハーンやベートーヴェン、そのほか誰でも、あなたの好きな歴史上の人物のもとからやってきたかもしれないのだ(原子が完全に再配分されるまでに数十年を要するので、対象は歴史上の人物に限られる。どれほど望んでも、まだエルヴィス・プレスリーの原子を所有することはできない)。>

 <つまり、わたしたち人間は短命だが、誰もが生まれ変わっているのだ。(中略)例えば、木の葉の一部や、ほかの人間や、一滴の露になる。それだけに留まらず、原子はほとんど永遠に移動し続ける。実際には、原子がどのくらい長く生き長らえるのか、誰も知らない。マーティン・リースは、おそらく1035年ほどだろうと予測している。あまりに大きい数字なので、こうして書き記すだけで幸せな気持ちになる。>

 移り気な原子たちの、ほんの束の間の集合体に過ぎないあなたやわたし。わたしたち人類が知っていることは、思っているよりもわずかで、わからないことのほうがずっと多い。しかし、だからこそ、好奇心の向かう先はまだまだ無限にあることを、本書は雄弁に語っている。

  
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