しかし、インフラにおける協力は、モゲリーニと楊が議論した安全保障協力からは遠い道のりである。中国とEUは、海賊対策、テロ対策のような現実的に協力し得る多くの利害を共有しているが、より広範な地政学的問題では両者はしばしば一致せず、EUは、安全保障に関する問題で米中間の板挟みになることを望まないであろう、と述べています。
出典:Shannon Tiezzi,‘Can China and the EU Boost Defense Cooperation?’(Diplomat, May 6, 2015)
http://thediplomat.com/2015/05/can-china-and-the-eu-boost-defense-cooperation/
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EUと中国の安保協力が、海賊対策、テロ対策などでは進展するだろうが、より広範な地政学的問題では困難であろう、という論説の趣旨は常識的なものと言ってよいでしょう。
安全保障の概念は広がっており、テロ対策や海賊対策、さらには気候変動などのいわゆる地球規模の問題も含まれるに至っています。こうした「広義の安全保障」は、特定の国あるいは国家群からの脅威ではなく、各国に共通の関心事であり、EUと中国に限らず、いかなる主要国間で協力が行われても不思議はありません。
しかし、ことが伝統的安全保障、すなわち特定の国、あるいは国家群からの現実あるいは潜在的脅威の問題になると、話は別です。この面でEUと中国が利害を共有することは少なく、したがって、協力が困難なのは当然です。
それでは脅威に直接結びつかない地政学的問題はどうでしょうか。論説は、地政学的問題ではEUと中国はしばしば見解が一致しないと述べながら、中国の「一帯一路」構想に言及しています。つまり、ティエッツィは、「一帯一路」構想を地政学的問題であると正しく認識していると言えます。しかし、モゲリーニEU外交安保上級代表は来る6月の中国・EU首脳会議は、EUと中国のインフラ・貿易促進の相乗効果を高める機会になるだろう、と述べ、欧州戦略投資基金を「一帯一路」と結び付ける可能性を示唆した、とのことです。これは、EUが「一帯一路」構想を専ら経済問題ととらえていることを示唆しています。EUには、「一帯一路」構想が地政学的側面を持っており、その推進に安易に力を貸すことは論説の言う「安全保障に関する問題で米中間の板挟みになること」に繋がると、よく理解させる必要があるでしょう。
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