シナイ州は元々、アルカイダ系の「アンサル・ベイト・マクディス」(エルサレムの支援者)という組織。それが昨年11月、イスラム国への帰順を表明し、正式な分派となった。エジプトの過激派は、アラブの春の政治・軍事的な混乱に乗じてシナイ半島を中心に勢力を伸ばした。武器は西方の隣国、内戦中のリビアから流れているという。
エジプトの治安当局が懸念しているのは、弾圧されて壊滅状態のモスレム同胞団の一部が過激化して地下に潜り、シナイ州と手を結ぶことだ。そうなれば、政情不安はさらに強まり、エジプトが大きく依存している観光収入の激変を招く。観光収入は59億ドル(2013年)だったが、今や半分程度にまで減少していると見られている。
スエズ開発にも影響
シシ政権は不安定な観光収入に代わる収入源の確保に向けて、スエズ運河の開発を進めている。スエズ運河の収入は53億ドル(同)だが、運河に両側通行を可能にする水路を新たに建設し、収入を2.5倍にする計画だ。しかしスエズに近接するシナイ半島でテロが激化し、シナイ州が勢力を拡大すれば、この開発にも影響が及ぶのは必至だろう。
もう1つ、シナイ州の伸張と切り離せない問題がある。それはシナイ半島のエジプト領と接するパレスチナ自治区ガザのIS支持者らが活動を激化させつつあることだ。このグループは最近、ガザの支配者であるイスラム原理主義組織「ハマス」に爆弾攻撃を仕掛けるなど活動を活発化させている「イスラム国の支持者たち」。軍事部門も創設され、組織の規模は2000人~3000人といわれる。
シナイ州もハマスを敵視していることから、シナイ州と「イスラム国の支持者たち」が連携すれば、その影響はガザにとどまらず、イスラエルにも波及して、中東和平の行方にもかかわってくる。イスラム国への信奉と共鳴は国際社会の想像をはるかに超える速さで増殖している。
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