2024年5月2日(木)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2015年8月4日

 現段階では、米軍機に人工島の12NM以内を飛行されても、中国には有効に対処する手段がない。追い詰められているのは中国の方だ。海底の珊瑚を積み上げただけの人工島は、地盤の強度に問題があるだろう。航空機を運用するには、高温多湿の悪条件の下で扱いの難しい燃料と弾薬を貯蔵する施設が必要だ。また、人工島には水がないため、搭乗員や整備員を常駐させるとすると、これら人員のための真水を蓄えておく必要もある。こうした設備を建設できるかどうかは疑問なのだ。

 しかし、中国も対処できないでは済まされない。パトロール中の中国戦闘機が、米軍機と遭遇することができたとしたら、必要以上に、「何かできる」ことを示そうとすることが考えられる。危険な示威行為をする可能性があるのだ。却って、予期せぬ衝突が起きる可能性が高くなるという見方もできるのである。

“力”を用いず、議論を通じて解決のための努力をするというのは、最低限のルール

 さらに、中国は、日本が南シナ海においてパトロール等を実施する決定をすれば、東シナ海において、海警局や海軍の活動を活発化させ、日本牽制を強めるだろう。
海上プラットフォームも、空域監視或は日米潜水艦の活動を探知するために使用されるかもしれない。中国軍事力等の活動が活発化するという意味において、短期的には対中抑止は効かない。

 南シナ海と東シナ海における問題は、連動するということである。中国にとっては、二正面というより、日本に南シナ海の問題に関与させないための陽動かもしれない。いずれにしても、日本が対処しなければならない事象は増加するだろう。

 しかし、日本は、誰かが“力”を用いて一方的に「現状」や「国際規範」を変更しようとすれば、これを止めることができるのは、他の“力”だけだ、という事実を、認識しなければならない。国際社会が抑止しなければならないのは、力による現状変更である。

 世界政府が存在しない国際社会において、問題を解決する際に、“力”を用いず、議論を通じて解決のための努力をするというのは、最低限のルールである。日本は、国際社会の一員として、この最低限のルールを守るべく、各国との協力を深めなければならない。

  
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