中国が南シナ海に主権が及ぶとする根拠は、南沙(スプラトリー)諸島の領有にある。「中国は、南沙(スプラトリー)諸島及びその付近の海域に対して、議論の余地のない主権を有している」という外交部による発言が、中国の論理を示している。
南沙(スプラトリー)諸島に対する領有権が否定されると、中国は南シナ海における権利主張の根拠を失ってしまう。
中国は、これまで、表向き、人工島建設が軍事目的だとは言ってこなかった。4月29日には、テレビ電話による会談で、呉勝利・中国海軍司令員がグリナート米海軍作戦部長に対して、岩礁埋め立ては「航行や飛行の自由を脅かすものではなく、国際海域の安全を守るという義務を履行するためだ」と述べ、米側の理解を求めた。
米国にとって、埋め立て完了だけでは不十分
さらに、呉司令員は、「気象予報や海難救助などの能力向上につながる」と説明し、将来、条件が整った際は「米国を含む関係国や国際組織が施設を利用することを歓迎する」とも強調した。中国は、表面上は協力姿勢を保ちつつ、米国と駆け引きするつもりだったのだ。
しかし、中国は、新たな対応を迫られることになった。中国外交部のスポークスマンは、「こうした行動(P-8Aの監視飛行)は、事故を引き起こす可能性があり、無責任で危険であり、地域の平和と安定を害するものである」と述べて、米国をけん制した。
2015年5月31日、アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)において、孫建国・中国人民解放軍副総参謀長は、中国が南シナ海の南沙(スプラトリー)諸島での埋め立てについて、「軍事防衛上の必要性に加え、海上救難などの国際的な義務も果たせる。埋め立ての速度や規模は大国としてふさわしい。合理的で合法的なものだ」と、軍事的な目的を含む作業の正当性を主張した。
孫副総参謀長の発言は、中国高官が、初めて「人工島が軍事防衛上の目的を有している」ことを公式に認めたものとして、国際社会の関心を集めた。また、孫副総参謀長は、「公正と客観性を原則に、国際的な問題を見るべきで、各国がとやかく言って、対立をあおるべきではない」と、中国を非難する国際社会をけん制した。
米中両国は、互いにけん制した後の、2015年6月23日及び24日、ワシントンで開催された戦略・経済対話(SED)で、再び南シナ海問題を議論している。この際、リベラルで知られるバイデン米副大統領が、開幕の演説で 「海上交通路が開かれ、守られていることがこれまで以上に重要になっている」と、中国をけん制した。
これに対して、杨洁篪・国務委員は「中国は航行の自由を強く支持している」と述べ、汪洋副首相は「対抗すれば双方が代価を払う。対抗より対話がよりよい選択だ」と応じた。中国は、米国との対決を避けた形だ。実は、中国指導部は、戦略・経済対話に出席する中国側代表団に、お土産を持たせて、米国の反応を見るつもりだった。
6月16日、中国外交部が、岩礁埋め立てについて「既定の作業計画に基づき、埋め立て作業は近く完了する」と発表していたのだ。
しかし、米国にとって、埋め立て完了だけでは不十分だ。ラッセル米国務次官補(東アジア・太平洋担当)は、中国外交部発表2日後の6月18日、戦略・経済対話を前に記者会見し、南シナ海の南沙(スプラトリー)諸島での岩礁埋め立て及び軍事拠点化の中止と、「航行と飛行の自由」の尊重を中国側に求める考えを示した。