2号機に備えられたRCICが、設計の8時間を大きく超えて3日間も働き続けたことは特筆すべきことで、駆動蒸気の圧力は下がり、水は混入するという劣悪条件で、ポンプは14日昼頃まで炉心冷却を続けた。3号機は、RCICは稼働1日で手動停止してしまったが、その後HPCIが設計通り作動して13日朝まで働いた。既存の安全設備は設計以上によく働いた─これが第3の教訓である。
これらの設備が動いている間に外部電源を復旧することができれば、2、3号機は安定冷却に持ち込むことができた。災害時の援助は、水のないところへは水を、食料のないところへは食料を、が鉄則だ。全電源喪失に至った福島事故では何を置いても電気の供給が優先されるべきであった。その証拠に、仮設電源が敷設された3月20日頃から、状況は目に見えて好転した。
以上の3つの教訓からわかるのは、40年以上前に設計・建設された軽水炉は、最悪の事態に陥っても放射能汚染を抑える潜在能力を持っていたということである。問題があったのは、設備ではなく扱う人間の方だ。にもかかわらず、現在適用されている安全規制と規制委は、「世界一の規制」という名のもとに、安全設備を増やすことばかりに傾注しているように見える。
規制委に必要なのは、緊急時にしか使わないような設備の取扱いや、先述の減圧と注水のタイミングに対する理解など、現場運転員の危機対応能力の向上を促し、電力会社が果てしない安全向上に対して能動的に取組むよう動機づける姿勢である。最大の教訓であるベントの確実な実施のためには、福島事故の轍を踏まないよう、政府などの外野が現場の邪魔をしないフローを整備することも欠かせない。規制委は、こういったことを自らの仕事だと考えているだろうか。(構成・編集部)
福島事故の本質についての説明が一向になされないことに疑問を感じていた本稿筆者の石川迪夫氏は、事故進展の経緯について分析し、その結果を1年あまり前に『考証 福島原子力事故 炉心溶融・水素爆発はどう起こったか』(電気新聞)としてまとめた。
なお、英文版がスプリンガー社より『A Study of the FukushimaDaiichi Nuclear Accident Process』として9月ごろ出版される予定。
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