東電の発表データによれば、背景放射線量は、14日深夜の前は毎時4マイクロシーベルト(μSv)で、14日深夜の後は300μSvである。年間に換算するとそれぞれ20、1500ミリシーベルト(mSv)となる。
年間20mSvの背景線量は、炉心溶融を起こした1、3号機のベントからの放射能放出による。ベントを行うと、格納容器のサブレッションチェンバ(SC)に溜めた大量の水を潜らせた上で放射能が放出される。年間20mSvという背景線量は水を潜らせることによる除染効果が存外に大きいことを示している。
放射線量の測定地点である正門付近は、原発からほぼ1キロ。住宅地は近いところでも3キロ程度は離れている。放射線量は、風の影響を無視すれば距離の2乗に反比例して下がるから、周辺地域への影響は正門の10分の1程度。つまり、ベントによる周辺地域の放射能汚染は年間2mSv程度と計算できる。ICRP(国際放射線防護委員会)が勧告している避難線量(年間20~100mSv)より十分に低い。
それに対し、14日深夜以降の背景線量は年間1500mSvだ。ベントに失敗した2号機からの直接放出は、それ以前のベントを通した放出に比べて約2桁(75倍)も高い。住宅地までの距離を考慮に入れても150mSvで、これはICRPの避難勧告値を上回る。この深刻な汚染が、現在も続く福島の長期避難をもたらした。
2号機のベントが失敗したのは、2つある弁の1つをうまく開くことができず、ラプチャーディスクも破れなかったからと言われている。弁が複数あるのも、ラプチャーディスクがあるのも、平常時の放射能漏れを防ぐため。安全対策の過剰な重複が逆効果をもたらすというのも、福島事故の大切な教訓の一つだ。なぜ規制委は、弁を1つにし、ラプチャーディスクをやめよと電力会社に指示しないのだろうか。
紙幅の関係で詳述できないが、ベント放出として述べてきた1、3号機からの放射能放出は、1号機溶融炉心からの直接の僅かな漏れの疑いが濃い。この場合ベントの除染効率は更に1桁ほど増加し、1000程度になる。1500mSvの背景線量率は、2号機のベントが成功していれば僅か1.5mSvにまで減少するということだ。これなら避難の必要は全くない。
ベントさえ開けば、あれだけの事故が起きても水の除染効果で避難の必要はない─これが14日深夜の放射線上昇データが示す第1の教訓だ。
炉心溶融の真実
次に検討すべきは、長時間の全電源喪失事態に陥ったとしても、炉心溶融を防ぐ手立てはなかったのか、という点だ。炉心溶融が防げれば水素爆発は起きず、周辺の放射能汚染や汚染水の発生を軽微に留めることができた。