実は、「炉心から水がなくなれば溶融する」という一般的なイメージは間違った俗論にすぎない。炉心溶融は、ウラン燃料に残る崩壊熱ではなく、燃料を覆う被覆管のジルコニウムと水が化学反応して発生する大量の熱によって起きる。その証拠が、溶融した原子炉全てが水素を大量に発生させたことである(1、3号機は水素爆発、2号機はたまたま建屋の一部が外れ、爆発せずに直接放出された)。この水素ガスはジルコニウム-水反応の副産物で、1979年の米スリーマイル島原発(TMI)事故でも同様の現象が起きている。
ジルコニウムと水の反応は、ジルコニウム温度が高ければ高いほど激しい。激しい反応が起きるための必要条件は、被覆管が千数百℃以上という高温になっていることと、反応に必要な水が十分にあることだ。
TMIの炉心は冷却水が大量だったためわずか2分で溶融した。福島の1~3号機は消防ポンプを使った注水だったため量が少なく、水量が十分になったタイミングで溶融に至っている。
原発事故となれば、何を置いても冷却優先と思われがちだが、これが間違いの元。炉心の温度が高い悪条件で水を入れると化学反応が起きて、かえって炉心溶融を招いてしまう。
だが防止策はある。化学反応を防ぐには必要条件を外せば良い。水は冷却に不可欠だから、もう一つの条件「炉心の高温状態」をなくせば良い。
圧力容器の弁を強制的に開いて格納容器に蒸気を逃がす減圧操作は、15~30分ほどの時間を必要とする。流出する蒸気によって、千数百℃に加熱されていた炉心(燃料棒)は徐冷されて、減圧終了時には150℃付近まで下がる。低温のジルコニウムは水とは反応しない。だから、減圧で炉心温度が下がったときに、間をおかずに消防ポンプで注水することができれば、炉心が溶融することはない。実際、2、3号機では減圧で燃料棒が冷やされていたが、2号機の注水は実行までに2時間を要し、3号機は途中2時間ほど中断した。この間に、崩壊熱で燃料棒の温度が再上昇してしまった。
福島で起きたような長時間の全電源喪失となっても、安定的な注水ラインを構築した後に炉心減圧を実施し、タイミングを間違えず注水を行えば、消防ポンプでも炉心溶融を回避できる─これが第2の教訓である。
既存安全設備は有効だった
既存発電所にある安全設備の多くは、電動のものが多い。ポンプしかり、計測器しかりで、長時間の全電源喪失となれば、ほとんどの安全設備が使えない状態となる。福島第一原発はまさにこの状況下に置かれた。
電源なしで使える安全設備は、崩壊熱で生じる蒸気を利用して動くいくつかのタービンポンプ、具体的にはRCIC(原子炉隔離時冷却ポンプ)とHPCI(高圧注水ポンプ)だ。