2024年4月19日(金)

古希バックパッカー海外放浪記

2015年10月11日

  私自身もウィンドサーフィンは多少経験があるのでその一言で彼女のスリムな体型の秘密が理解できたような気がした。北海に面したオランダの海は夏の一時期以外は湿った重い強風が吹き荒れている。オランダで一年中ウィンドサーフィンできるのは相当な上級者だけであり、かなりの筋力、泳力の持ち主である。冬の凍り付きそうな荒れた海を強い意志を持って強風に立ち向かい大波を乗り越えてゆく。それは彼女の生き方にも重なる。

 彼女と別れて港に向かうバスに乗った。バスに乗ってからも彼女の凛として毅然とした言葉が脳裏から離れなかった。

 「私の人生は他人から見れば失敗の繰り返しかも知れない。でも、それが私の人生。なにも後悔はないわ。退屈な人生(boring life)より波乱に満ちた人生(life with ups and downs)のほうが好きよ。」   

昼中のアルゼンチン・タンゴ

 5月13日 11時:

 港に行くバスは途中のバス・ターミナルで乗り換える。乗り換えの待ち時間が一時間以上。バス・ターミナルの待合室は吹きさらしで昼間でもかなり寒い。仕方なく用意してきた手製のサンドイッチで早めの昼食をとる。周囲の外人観光客や地元の人たちが珍獣を見るように興味津々で私の一挙手一投足を見ている。寒い中での退屈しのぎであろう。数分で食べ終わってしまうと時間を持て余した。

ブエノスアイレスのお姉様たちと

 そのとき粋な感じの見た目“アラサー”の二人連れのお姉さんたちが待合室に入って来て、私から一番遠いベンチに腰掛けた。これは格好の退屈しのぎになるとばかりに、すかさず二人のほうに近づいて「ハーイ。ハロー。」と挨拶し二人の横に腰掛けた。

 二人はブエノスアイレスから来た従姉妹であり英語は得意ではないと。ここぞとばかりに多少は勉強したことがあるスペイン語の単語を総動員しておしゃべりする。アルゼンチンと言えばタンゴである。一人は歌うのが得意でもう一人は踊るのが得意であると。私が♪ベーサメ、ベサメムーチョ♬と水を向けると二人は小声で唱和した。そのあと“奥様お手をどうぞ”など知っている限りのタンゴを私がハミングすると彼女たちは手足で拍子をとりながら歌う。次第にエスカレートして歌声が大きくなり待合室にタンゴが響く。

 他の客たちも楽しそうに手足で拍子をとりながら聞いている。30分くらい三人ではしゃいでいたら待合室の外から覗き見していた褐色の肌のプレイボーイ風のカリブ系ラテン野郎が割り込んできた。早口のスペイン語で内容不詳であるが「お姐さん達、楽しそうだね。そんな爺さんはほっといて俺と遊ぼうぜ」的な陳腐なアプローチであろう。

 私が妙齢の素敵な女性と国際文化交流に励んでいると、しばしばこのように私を爺さんと侮って割り込(cut in)んでくる若造に遭遇する。このような場合、私は断固として無礼で未熟な若造のカットインを阻止することにしている。この時も負けてたまるかと沸々と闘志が滾ってきた。


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