2024年11月22日(金)

サムライ弁護士の一刀両断

2015年10月20日

 わが国の刑事法では、犯罪が発生した場合、原則として、被害者からの申告や届出がなくとも捜査機関が自主的に捜査を開始し、被疑者を起訴して有罪判決を求めることができるとされています。

 しかし、それでは不都合な場合もあります。例えば、性犯罪などは、被害者の意向を無視して捜査が開始され、公開の法廷で裁判が開催されることで、被害者がかえって精神的な苦痛をうけることが考えられます。

  そこで、我が国では、一定の犯罪については、例外的に、被害者などによる告訴がなければ起訴できないとされています。このように告訴がなければ被疑者を起訴することができない犯罪類型を「親告罪」といいます。

 現状、わが国では、著作権侵害の大部分が親告罪とされています。

 その理由としては、「著作権は、個人の名誉や生き方など、人格形成に関する権利(人格権)としての側面が強く、著作権者が希望しない場合にまで処罰すべきではない」などと説明されるのですが、現実問題として、著作権侵害罪を一律に非親告罪とするには不都合があります。

 まず、著作権侵害には幅広い態様があります。例えば、会社内部のプレゼン資料に、著作物である写真を無断で使ったような場合も著作権侵害にあたる可能性がありますが、そのような場合にまで、捜査機関の判断だけで訴追できてしまうというのはやり過ぎでしょう。

 また、著作権侵害かどうかの判断が微妙なケースもあります。先日、オリンピックのエンブレムが話題となりましたが、「故意に似せた」のか「偶然似てしまった」のかは、実際には判断が難しいところです。また、映画や小説などは、多かれ少なかれ、過去の作品から影響を受けていますので、何かしら似た部分があるものです。配給会社や出版社が「もしかすると著作権侵害とされて、いきなり訴追されるかもしれない」と考え、慎重になり過ぎた場合には自由な創作・表現活動が委縮してしまうおそれもあります。

 その一方で、海賊版を販売するような行為は、明らかに著作権者にダメージを与えます。そのような場合、著作権者の意向確認を待たず、スムーズに取り締まることにメリットが有りそうです。

 TPP交渉でも、著作権侵害を非親告罪とすることを受け入れるかどうか、様々な議論がありました。


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