NTTドコモでMVNOとの折衝を行う企画調整室 室長 脇本祐史氏は、昨年12月のITmediaのインタビュー(http://www.itmedia.co.jp/mobile/articles/1412/22/news043.html)で次のように話している。
〈HLR/HSSを開放してほしいという話がありますが、日本において本当に必要なのかは疑問もあります。欧州だと、異なるキャリアを結んでいくという考えがありますが、それはカバーエリアや速度が大きく違うからで、キャリアをチェンジするためにMVNO側がHLR/HSSを持つという話があります〉
〈一方で、日本の場合は大手3社のエリアカバー率はほぼ同じなので、そこを交代するためのHLR/HSSはあまり必要ではありません。中には、独自のSIMカードを発行するためとおっしゃる方もいますが、それは本当にHLR/HSSを持たないとダメなのか。やりたいことがもっと明確にならないと、HLR/HSSを出す、出さないが決められません〉
携帯キャリアにとってみれば、フランスのように平均客単価の急速な下落を招くような事態はさけたいのは当然だ。開発負担や投資リスクを負わずに、MVNOが携帯キャリアと同等のサービス展開ができることは不公平だと主張している。MVNOの加入者を把握できなくなることによって、予期せぬトラフィック増加に対応しきれずに全体の品質劣化を招いたり、緊急時の重要通信の確保や電話番号の効率的な運用が困難になるなどの意見にも一理あるだろう。
しかし、携帯キャリアが最も恐れていることは、MVNOに加入者管理機能を開放することによって、自社のネットワークがダムパイプ(土管)化してしまうことだ。MVNO事業を始めたグーグルなどの海外巨大プレイヤーの参入が格段と容易となることによって、携帯キャリアの収益が圧迫されることが目に見えている。
モノのインターネットの通信は金にならない
MVNOがNTTドコモに支払う、Xi(LTE)サービスの2014年度の接続料(レイヤー2)は、10Mbpsという帯域について月額94万5059円だ。それを超えると、1.0Mbpsごとに9万4505円増加する。この料金は、総務省のガイドラインに従って毎年見直されており、2008年度は10Mbpsで月額1267万円だったので、6年で92.5%もの値下げが行われたことになる。もちろん、スマホ向けの格安SIMを提供するMVNOにとっては、10Mbpsという帯域ではビジネスにならない。その数倍、数十倍の帯域を調達して、多くの顧客を獲得しなければならない。
それに対しIoT端末は、通信するデータ量が小さく、そのスピードも遅くて構わないケースが多い。また、通信の時間をうまく分散できれば、それほどの帯域は必要ない。
例えば、128kbpsの低速で、1回の通信で50文字(半角)のテキストデータ、例えばGPSによる位置情報などをクラウドに送信するIoT端末を考えてみる。単純に10Mbpsを128kbpsで割れば、同時に78台のIoT端末が128kbpsで接続可能だ。128kbpsで50文字(400ビット)を送信する時間は1/320秒なので、1秒を320台で分割すれば合計25000台のIoT端末が通信することができる。さらに乱暴な計算を続けると、それぞれの端末が1分間に1回の頻度で通信する必要があるケースであれば、10Mbpsの帯域で150万台のIoT端末に通信サービスが提供できることになる。