MVNOは携帯キャリアから通信を帯域という単位で調達するが、SIMのエンドユーザーには、例えば「月に5Gバイトまでの通信ができるサービスが2000円」というようにデータ量で販売する。5Gバイトを超えると通信ができなくなるのではなく速度が非常に遅くなる。しかし、MVNOがどのくらいの帯域を調達して、どれだけのSIMを販売しているかは明らかになっていないので、5Gバイトまでの高速データ通信が保障されている訳ではない。効率よく帯域を使って、価格と品質のバランスをとることがMVNOの格安SIMビジネスのポイントになる。そこに価格以外の付加価値は見えない。
上のような(乱暴な計算の)例の場合、100万円程度で調達した通信を150万台のIoT端末向けに販売するならば、その調達価格は1台あたり月額1円にも満たない。MVNO事業には通信交換機や課金・認証などの初期投資だけでも数億円かかる設備を保有し、さらに運用や保守も自社で行う必要がある。これまでのMVNOの形態では、モノのインターネットのためのモバイル通信サービスを提供することは難しい。
アップルの独自SIMの脅威
昨年10月にアップルがApple SIMが付属したiPadを米国で発売した。ユーザーは購入後に、メニューから通信キャリアとデータプランを選ぶことができる。またAT&Tを選択したとき以外は、後で他の通信キャリアへの変更ができる。例えば、通常はSprintのデータプランを利用し、海外に出かけるときにはローミングサービスのGigSkyを追加して、その短期型のデータプランを購入することができる。
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SIMカードには、あらかじめ一つの携帯キャリアを利用するための、電話番号やIMSIという識別番号などの通信プロファイルが書き込まれている。このプロファイルを後から書き換えることができる、エンベデッドSIM(eSIM)と呼ばれる技術が携帯電話の業界団体で検討されてきた。これは主にSIMカードをあらかじめ組み込んでおく必要のあるIoT端末での利用を想定したものだ。
小型化や部品点数の削減、そして防水性や耐久性のために、IoT端末には、スマートフォンのようなSIMカード用のスロット(差し込み口)を省いてSIM機能を組み込みたい。
しかし、通信プロファイルが書き込まれたSIMカードを、利用者や仕向地ごとに複数の携帯キャリアから仕入れて製品に組み込んでいたのでは、生産の効率が非常に悪くなる。eSIMは、製品に組み込まれたSIMカードに登録されている通信プロファイルを、無線通信によって遠隔で書き換えて、携帯キャリアを変更することができるようになっている。