2024年11月24日(日)

イノベーションの風を読む

2015年11月6日

 SIMカードの通信プロファイルを遠隔で書き換えるには、サブスクリプション・マネージャー(SM)と呼ばれるシステムが必要になる。SMは、複数の携帯キャリアの通信プロファイルを管理し、指定された通信キャリアの通信プロファイルを無線通信によってSIMカードにダウンロードし、その通信プロファイルを有効にする。通信プロファイルを遠隔で書き換えるためには、無線でSMと接続する必要があるので、eSIMには少なくとも一つの通信キャリアのプロファイルが書き込まれている必要がある。

 Apple SIMの技術や仕組みについては明らかにされておらず、アップルはこの分野で独自のしくみの特許をいくつか申請しているので断定することはできないが、Apple SIMがeSIMと同様のものだとすると、最初に接続する通信キャリアのSMを利用しているのか、アップルがSMを持っているのかが気になるところだ。もし後者であるとすると、通信プロファイルを作成するための情報を携帯キャリアがアップルに提供していることになるが、現時点で携帯キャリアがそこまで妥協しているとは考えにくい。AT&Tだけを特別扱いしていることから、AT&Tから提供されたeSIMを使い、AT&TのSMに接続しているのかもしれない。

 アップルがこの領域にさらに踏み込もうとしているのは明らかだ。グーグルのProject FiというMVNO事業も(日本のMVNOの定義とは異なると思われるが)、すでにスプリントとT-モバイルの2つの携帯キャリアの回線を切り替える仕組みを持っている。携帯キャリアの恐れるネットワークのダムパイプ(土管)化は、すでにじわじわと始まっている。

モノのインターネットのためのMVNOが必要だ

 モノのインターネットは、M2Mと呼ばれる分野が先行している。M2Mとは「Machine to Machine」の略で、モノとモノがネットワークに繋がり、人を介さずに情報交換を行い、自動的に制御を行う仕組みを指している。これはテレメタリング(このネットワークはインターネットに限定されない)と呼ばれ、物流やエネルギー、リモート監視・計測などの産業分野ですでに実用化されている概念と同じだが、特に無線通信やクラウドなどのインフラの発達によって、そのユースケースが拡大し、IoT/M2Mなどと表現されるようになった。

 今後は、そのユースケースがさらに拡大し、一般消費者が購入するスマートフォン以外の製品(モノ)もインターネットにつながり、クラウド上のサービスと連携することによって、人々に新しい価値を提供するようになるだろう。しかし、そのためのモバイル通信サービスはまだない。それは技術的な障害があるからではない。

 携帯キャリアがMVNOに提供する回線には、データ通信と音声通話の2つの系統があり、それぞれ加入者管理機能の意味合いが違う。加入者管理機能のアンバンドルを訴えるMVNOは、モノのインターネットの推進にも必要だとしているが、アンバンドルによってモノのインターネットがどうなるのかについては説明されていない。金にならないモノのインターネットの通信については、あまり本気ではなく、スマートフォン向けの格安SIM事業のことしか考えていないように思える。

 高い技術力を持った日本の製造業が、スマホエコノミーにおいては、一般消費者向けの最終製品ではなく、その部品を供給するという立場に甘んじている。モノのインターネットの時代に、人々に新しい価値を提供するモノ(製品)をつくるために、「モバイル創生プラン」で示された「もっと自由に、もっと身近で、もっと速く、もっと便利に、モバイルを利用できる環境整備」が急務ではないか。

  
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