WEDGE REPORT

2015年11月27日

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 確かに撃墜事件の後、米欧ロの共闘の雰囲気は一変し、冷戦時代の再来を思わせるような対立状況となった。米国とロシアのISに対する戦果をめぐる応酬も激しくなった。米国防総省は、ISのタンクローリー1000台を破壊したといったロシア側の発表を誇張しすぎと批判、これにロシアも米国を嘘つき呼ばわりするなどとげとげしいやり取りを繰り広げており、”棚上げ論つぶし”ということであれば、エルドアン氏の狙いはうまくいったことになる。

 もう1つ、撃墜の理由はシリアの少数民族の反体制派、トルコ系のトルクメン人をロシアが攻撃したことに対する怒りである。トルクメン人はトルコ国境に近いシリア北部を居住地区とする少数民族で、エルドアン氏が”親類”と呼び、トルコの庇護下にあると見なす部族だ。アサド政権の打倒を目指す反体制派として戦闘に加わってきたが、このところ、ロシア軍機によるトルクメン人攻撃が目立っていた。

 トルコ政府はロシア大使を呼んで再三注意したが、ロシア側がこれを軽視したような姿勢を示していたため、愛国主義者にして民族主義者のエルドアン氏が激怒し、ロシア機の領空侵犯には撃墜もやむなし、との決定になったようだ。

NATOの介入を回避

 プーチン氏は「背後から刺された」「謝罪の一言もない」などとトルコを非難、最新の地対空ミサイル・システムをシリアに配備する一方で、ロシアからの天然ガスパイプラインの建設の見直しも含め経済制裁を発動する構えだ。

 エルドアン氏は「再び領空侵犯があれば、同じように対応する」と強気の姿勢を崩していないが、実際のところ、プーチン氏がこれほど強く反発するとは予想していなかったようで、計算違いとの見方も強い。特にロシアはトルコにとって最大の輸入先。全輸入量の10%(2014年)を依存、輸出も4%を占めている上、ロシアがトルコ旅行の禁止を打ち出したのが打撃だ。

 北大西洋条約機構(NATO)はトルコの要請を受けて緊急理事会を開催し、加盟国であるトルコとの連帯を強調した。しかし今回の撃墜事件をロシアとNATOの問題にはしたくない、というのが本音で、エルドアン政権に対して自制を強く促している。オランド仏大統領は26日モスクワでプーチン氏と会談し、ロシア側にもトルコとの対立をエスカレートさせないよう求めた。

 トルコとロシアの緊張が高まる中、エジプトやチュニジアではISの分派によると見られるテロが続発するなど、パリの同時多発テロ以降も各地でISの活動が活発化しており、国際的なIS包囲網の亀裂を尻目にISが欧州で新たなテロを画策しているとの懸念も浮上している。

  
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