クロコダイル・ダンディーとワイナリーの御曹司
再び町に出かけて、それらしい雰囲気のレストランを探してはメニューと価格をチェック。未知の町ではまず地元相場を調査するのはサラリーマン時代以来の習性である。ハウスワインや生ビールがグラスあたり幾らか相場を確認するとほぼその国なり地域の飲食類の物価水準が見えてくる。一時間ほどかけて五店ほど比較して洒落たベトナム料理の店に決めた。ウェートレスが愛らしく雰囲気が良かったのでついでに白ワインを飲んで一息入れた。
ホステルに戻るとまだ5時前である。暇なのでロビーでビールを飲んでいたオーストラリアの赤銅色に日焼けした70歳の老人とおしゃべり。田舎で農場を経営しており自分で開拓して農場を作り上げたという。ワニと格闘したり、毒蛇に咬まれたりとワイルドな経験を聞く。腕には鰐に咬まれた傷跡が残っている。映画『クロコダイル・ダンディー』のようだと感嘆すると「俺が元祖クロコダイル・ダンディーだ」と呵々大笑。
そこに髭面の調子のよさそうな青年が来て自己紹介しながら話に加わった。マティウス、22歳イタリア男でべらべらとしゃべりまくる。およそラテン系男子の英語は語彙が乏しいが、とにかくしゃべりまくるという性向がある。少し話していたら外見に似ず案外まともだ。オーストリア国境近くの北イタリアの代々続くワイナリーの御曹司だ。そのあたりはドライ系白ワインが美味かったことを思い出し、聞いてみると「上質の白ワインは伝統的に高値で輸出されてきた。ドイツが最大の輸出先だ。赤ワインは近年中国向けが急増している。中国の需要増で価格が上昇している。俺自身は個人向けネット販売に注力してEU域内であれば受注してから24時間以内に配送するシステムを構築したんだ。消費者の嗜好に細かく対応できるのでネット販売は将来の柱になる」と得意げに語る。
ニーナと二人静かなディナー・タイムのはずが・・・
ワインの蘊蓄を聞いているうちに6時近くなり、ニーナがロビーに現れた。上は黒っぽい胸元の開いたニット・ブラウス、下はぴったりとした白のサブリナ・パンツ。まるでモデルのようだ。私は立ち上がって「ニーナ、気分どう? 素敵なファッション、すっごくクールだね」と挨拶。
ホステルを出ようと二人で歩き出すとマティウスが慌てて二人を呼び止め「タカ、ディナーに行くなら俺もちょうど出かけるところだ。俺もジョインさせてよ」とイタリア男独特の押しの強さと軽いノリで割り込んでくる。私が躊躇する間もなく「僕はタカの友人のマティウス。君の名は?」なんて秒殺技でニーナにすり寄っている。そこに二人の青年が通りかかる。マティウスは二人と何か話していると思ったら私とニーナに向かって「彼らもディナーにでかけるところなんだ。ちょうど良いからみんなで一緒に行こうよ」と強引だ。ニーナと二人で優雅にディナーするという目論見が崩壊してワイワイガヤガヤの飲み会に変貌してしまった。