2024年4月26日(金)

古希バックパッカー海外放浪記

2016年3月13日

ニーナの夢は夜開く、新天地ニューカレドニア

左から酔っぱらいのオジサン、夢見るフランス娘ニーナ24歳、図々し いイタリア野郎マティウス22歳

 気を取り直して目星をつけたレストランまで5人で歩く。ニーナと並んで歩いていると気分が盛り上がってくる。ニーナはスレンダー美人で身長178センチ[注:故ダイアナ王妃も178センチ] 。パリ近郊の町のレストラン&バーのウェートレス。チップをかなりもらって実収入は悪くないようだ。

 「でも田舎町のウェートレスなんて夢がなくてつまらないわ。退屈な毎日よ」とふっと言った。彼女の日常生活を問わず語りに聞いていて往年の名画『ヘッドライト』の一場面が甦る。ジャン・ギャバン演じる中年の長距離トラック運転手と街道沿いの宿屋兼レストランの20歳のウェートレスとの悲恋を描いたメロドラマである。『ヘッドライト』のヒロインは薄幸の運命に甘んじるしかなかったが、ニーナは自分でなんとか人生を切り開こうともがいているようだ。

 ニーナに「君の夢はなに?」と尋ねると「ニューカレドニアに行って仕事を見つけるの。そして幸せに暮らすのが夢なの」と彼女は自分自身に言い聞かせるように言った。

フエの“クレイジーナイト”はエンドレス

右からスペインの漁師、漁師の可愛い新婚妻、二人のスイス人学生、マ ティウス、ニーナ嬢

 お目当てのレストランでそれぞれが勝手な注文をしてビールやワインを飲んで盛り上がったがお勘定すると一人当たり800円くらいであった。

 二軒目はロックがガンガン鳴り響く欧米人の大好きなロックカフェだ。満員御礼状態。ビールをジョッキで注文して何度も乾杯する。ニーナは水を得た魚のごとく生き生きとして踊りだす。私も仕方なくお付き合いで一緒に踊る羽目に。ニーナの一番の楽しみはパリ近郊やベルギーなどで開かれるロック・フェスティバルに泊りがけで友人たちと遠征してバカ騒ぎをすることだという。

 ニーナは益々ボルテージが上がり煙草をスパスパやりだす。手首に小さな刺青がありPIDIと読める。ヘブライ語で「ユニバース、普遍」という意味で世界中の人々が共有している普遍の価値観、即ち愛、信頼、平和などを大切にすれば人類の争いはなくなると真剣な表情で説明してくれた。「私もそれを信じるよ(I believe it)」と私は彼女の手首を両手で握って励ますように断言した。

 全員ジョッキを3杯空けて4杯目を注文したころから座が乱れる。隣近所の欧米人達と乾杯したり写真を撮ったりと。隣席のスペイン人カップルとなぜか意気投合。男が日焼けしたマッチョなので「漁師か(エレス ペスカトーレ)?」と冗談で聞くと果たして漁師であった。女子は欧米人にしては小柄で滅茶苦茶愛嬌がある。こういうナイス・カップルと遭遇すると年甲斐もなくはしゃいでしまう。

 スペイン人カップルも合流して7人で三軒目に。マッチョの漁師がラム・コークを溢れんばかりに入れたピッチャーを持って来た。7人で回し飲みをして盛り上がる。このあたりから記憶が飛び飛びとなる。

 さらに時間が経過。気がつくと四軒目の店にいる。地下にあるプール・バー。ウイスキー・サワーをピッチャーで回し飲み。ビリヤードをやっていたグリーンのワンピースのかっこいい英国人のお姉さんとチャラチャラ。可愛いスペイン女子とジルバを踊ったような気もする。

 次の鮮明な記憶はホステルの部屋だ。その前にニーナとマティウスと三人で肩を組んで歌いながら雨上がりの街をふらふら歩いて帰ってきたような気もするが定かではない。部屋の中でマティウスと一緒にベッドに腰かけて歯磨きをしている。ニーナが下着姿でうろうろしていてそれからシャワー・ルームに消えたが映画のワンシーンのように現実感がない。時計は午前1時だったような。

 翌朝人の気配で目覚める。7時半だ。ニーナがバックパックを背負って颯爽と出発するところだった。スケスケのタンクトップにホットパンツというド派手なファッションがきまっている。「昨晩は楽しかったわ。ありがとう」とニーナは微笑んだが、当方は二日酔いのため「グッド・ラック」というのが精一杯でベッドから手を振って見送った。

⇒第5回に続く

  
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