筆者は黒田総裁が投入した派手な量的緩和には反対の立場だが、急激な円高圧力に対して非常手段としてのマイナス金利を導入することには賛成であり、2011年12月号の「ウェッジ」誌上でも、マイナス金利導入を提唱したことがある(『マイナス金利で円高阻止を』)。また、日本のリスク・テイク意識を覚醒させるためにも、一時的なマイナス金利は必要悪かもしれない、と思っている。
ただし、その金融政策の単なる延長上に日本経済にとって最大の命題である「潜在成長力や一人当たりGDPを向上させる姿」を描くことはできないだろう。2%という全く理論的根拠のない物価上昇率目標と非現実的な目標時期を掲げる限り、財政ファイナンスに直結する量的緩和と市場機能を破壊するマイナス金利の二本立ての金融政策が、精査されることなく延々と継続される可能性は高い。
アベノミクスの結果を直視する
昨今の安倍政権の立場は、経済問題は日銀に任せておくという、一見日銀を信頼しているように見えて、実は責任をすべて日銀に追わせようとする、逃げの姿勢である。財政出動の余力がなく、面倒な規制緩和への意欲を失っているからだ。そして経済ペースの低迷の原因を、中国経済や原油市場など外部要因に押し付けている。
いま必要なのは、政府が3年間のアベノミクスの結果を真摯に直視し、過ちを認めて経済政策を転換させることである。具体的には、日銀の迷走を止めること、財政政策に知恵を絞ること、そして規制緩和へのエンジンを再開することだ。民間では、金融機関がマイナス金利の時代に見合った新しい融資手法を開発することも必要である。
日銀に関しては、インフレ目標を長期的な目途に戻し、その数値や期限に関する固定的な概念を放棄して、金融政策の自由度を取り戻す必要がある。それを黒田総裁に強く要請出来るのは、アベノミクスの責任者でありかつ日銀総裁を任命した責任者でもある安倍首相以外にいない。