地球温暖化防止のために必要な技術を羅列しているだけであり、両国がこれらの技術で協力するのは、ごく自然なことのように思われる。しかし、米国政府と議会の取り組みと組み合わせると、この米中合意の違う側面が浮かび上がる。
オバマ政権のグリーンニューディールは
産業構造の転換
グリーンニューディールとマスコミでは呼ばれるオバマ政権の政策では、環境分野に投資を行うことにより、需要と雇用を創出することが大きな目的である。そのために、100万台の電気自動車の導入、再生可能エネルギーの利用、賢い送電線と呼ばれるスマートグリッドの整備などが計画されている。
一方、現在米国の発電量の50%を担う二酸化炭素排出量の多い石炭火力発電所の削減は見込まれていない。国内に大量にある安価な石炭資源を利用することが、エネルギー安全保障と電気代を抑制するために必要とされるからである。このため、米国政府は石炭火力発電所の効率向上につながる石炭ガス化複合発電(IGCC)の普及と石炭火力発電所から排出される二酸化炭素を補足し、地中に固定化するCCS技術の開発に力を入れている。
二酸化炭素排出量の多い石炭火力を維持する一方、再生可能エネルギー、電気自動車に取り組む姿からは、環境よりも産業構造の転換に力を入れる政策の姿が見えて来る。例えば、電気自動車に力を入れるのは環境だけではなく産業構造の問題だろう。日欧に負けてしまったエンジン技術から電池にゲームのルールを変え、20世紀に米国が覇権を誇った自動車産業を蘇らせることが狙いの一つだろう。
米国は、電池製造で中国と協力することにより電気自動車の市場を中国にまで拡大することができる。また、米国以上に石炭への依存度が高く80%の発電を石炭で行っている中国にはGEの技術が世界一進んでいると言われるIGCC、また今後商業化が進むCCSの技術を売り込むことも十分可能だろう。
電気自動車だけでなく住宅も売り込む
さらに、米国は住宅関連技術の中国への売り込みも狙っているようである。米中戦略・経済対話に先立つ7月中旬に米中はクリーンエネルギー研究センターを設立し、省エネ住宅、CCS、電気自動車などの研究にまず1500万ドル投資することで合意している。合意の詳細については発表されていないが、住宅建設に伴い整備される公共の交通網、スマートグリッドなどのインフラの技術も米国が売り込みを図っている可能性がある。
米国が中国に技術、設備を売り込むだけでなく、製造コストが安い環境関連設備を中国で製造し米国で使用する関係の構築も着々と行われている。
既に、10月の末には中国の瀋陽動力集団がテキサス州の風力発電プロジェクトに15億ドルを超える設備を納入することで合意している。11月になり、太陽電池では世界最大手の一つ中国サンテック・パワーがアリゾナ州で工場を建設することが発表された。