2024年11月25日(月)

Wedge REPORT

2009年11月20日

 米中双方が、お互いの市場を利用し、ビジネスを拡大するだけであれば、日本も、市場の大きさは米国より劣るものの、同様のことを試みることが可能であろう。しかし、米中の間には更なる仕掛けがある。

環境ビジネスのために補助金を作り出す米国

 現在上院で審議中のACES法では、2020年に05年比で温室効果ガスの排出量を20%削減することになっている。オバマ政権案の14%削減、下院案の17%削減より更に厳しくなっているが、この削減達成のために大規模排出事業者を対象に排出権取引制度が導入される予定である。この取引制度では、割り当てを受けた事業者は、割り当てを受けていない事業者の削減分の排出権を利用することが可能であり、上院では年間15億トンまでの利用を認めることが議論されている。このうち7億5000万トンは海外の温室効果ガス削減事業で得られた排出権が利用可能とされている。

 米国が中国に輸出した技術で削減された排出権を、米国が購入し削減目標達成に利用することは大いに考えられる。この排出権は国連の京都議定書の排出権と異なり、米国政府、米国環境庁が認めることになっている。

 例えば、GEのIGCC設備では、既存の石炭火力発電所より効率は20%以上良いとされている。この設備を中国の電力会社が購入すると二酸化炭素の排出量は20%以上削減される。100万kWの石炭火力発電所であれば、既存の設備との比較で50万トン近い二酸化炭素が毎年削減されることになる。米国政府が認めれば、この削減分は排出権となり、米国で利用可能である。

 米国での排出権の価格を、米国環境庁は2020年で二酸化炭素1トン当たり16ドルと予想している。この価格を前提にすると100万kWのIGCCプラントを米国企業から導入することにより、年間800万ドルの収入を排出権の代金として中国企業は得ることになる。これだけの実質的な補助金が出されるならば、他国のプラントが中国で競争することは難しい。

インドもおさえる米国
出遅れた日本に打開策はあるのか

 米国は2020年に向け、削減目標を立てているものの、割り当てを受けた事業者での削減ではなく、域外からの排出権を主体に達成する意向だろう。特に途上国の排出権を利用することにより、排出権価格は極めて低く抑えられる。その排出権の購入を自国の技術、設備の輸出に結びつけるのが米国の狙いではないか。米国はインドとも環境外交を繰り広げている。中国に続きインド市場でも排出権という補助金が使われるのだろう。

 既に、東欧はEUに組み込まれ、ロシア、ウクライナでもEU企業が環境ビジネスに乗り出している。中国、インドはアメリカがおさえることになりそうだ。日本企業は、米中が未だ本格的に取り組んでいない製造工程での省エネ技術などを積極的に中国、インドに売り込む一方、成長が期待できる東南アジア市場を米欧に先駆けおさえる方策を早急に考える必要がある。

 米国のように排出権取引制度を、削減のためではなく海外市場獲得の手段として活用するのも一つの方法だろう。ただし、日本は京都議定書の排出権から離れ、独自の基準で排出権を認定する米国の手法を取ることはできないだろう。米中が技術と製造を分担するように、日本と東南アジア諸国の間で技術と製造の分担を早急に行うことも必要だろう。環境分野での政府の支援策も必要とされる。
 

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