例えば、1万円のふるさと納税を行うと、2000円は納税者(寄付者)から、1600円は国の所得税から、6400円は自治体の住民税から捻出されることとなる。国と寄付者が居住する自治体の税収は減少。さらに、地方へ納税された金額の一部は返礼品で消化されてしまうため、行政サービスに使える国・地方の税収総額は減少していると言える。
しかも、ふるさと納税で控除可能な住民税・所得税枠は所得に連動する。高額所得者ほど控除額は大きく、返礼品を沢山もらえる。これは、税の公平性の視点からしても歪んでいる。
実際、高額納税者が多い港区では、ふるさと納税による税収減が5億円を超えると予想されている。これは小学校給食への支出額とほぼ同じで、無視できない金額となっている。
一般の納税に「お返し」などない。しかし、お返しが存在するふるさと納税は、納税者にとって「やらなきゃ損」となる制度である。結局、この制度で割を食うのは、「ふるさと納税しない納税者」となるわけだ。
地方にとっても「やらないと他に出し抜かれる」ので参入するしかない。ふるさと納税の構造的問題に当初から気づき、積極参入に反対していた首長も、地元業者・議会からの突き上げ、周辺自治体の実績などからやむなく対応せざるを得なくなってきている。
さらに、納税金額に対する返礼品比率を上げれば上げるほど人気が出て、納税金額が上がるため、誰も返礼品競争から下りることができない、まさにチキンレースと化してきている。
都市部側の納税者としても、ふるさと納税する人が得をして、しない人が損をする構造のため、逃げられない。税制だから、個人でどうにかできるものではない。
チキンレースを止める処方箋
このような不毛な競争は一刻も早くやめ、地元経済へのインパクトが大きくなる前に沈静化を図る必要がある。既に通期でのふるさと納税総額は1000億円規模が視野に入っており、待ったなしである。
ふるさと納税は、やらない自治体と個人が割を食う仕組みであるため、自治体や個人に自制を求めるのは不可能である。国として一律制限を設けるべき時にきている。具体的には、「返礼品の撤廃もしくは納税額に対する返礼比率の制限」、「各企業・生産者からの調達総額に上限を設定」、「納税額の一定比率を自治体の財政健全化に充当」といった内容になるだろう。
現在のふるさと納税は、本質的な税制メリットを持った選択型寄付の域を超えてしまっている。本来、個々人が納税先を選択できる選択型寄付税制は、多様な価値観に基づく成熟した社会を作る上で必要不可欠なものだ。これまでのように、税金を国に一度吸い上げられ、一部の人達の価値判断によって地方に分配されるだけでは、地方の多様な成長は成立しない。真なる地方創生を推進する上でも、制度趣旨に立ち返り、ふるさと納税を健全な選択型寄付税制に戻す必要がある。
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