その父恋し、母恋しの声が、いつのまにか森鴎外の『山椒大夫〔さんしょうだゆう〕』にこだましている。雀を逐〔お〕っている盲目の女が、長いあいだ別れ別れになっていた息子と再会をはたしたときの声である。
安寿〔あんじゅ〕恋しや、ほうやれほ。
厨子王〔ずしおう〕恋しや、ほうやれほ。
私にはその「ほうやれほ」のリフレーンが、山鳥の「ほろほろ」と鳴く声に重なってきこえているのである。亡き人が語りかけてくる声にきこえてくるのである。
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