2024年11月23日(土)

風の谷幼稚園 3歳から心を育てる

2009年11月26日

 「自分で掘ったんだよね? 泣くくらいなら降ろす?」

あちこちで、仲間のリュックを支えてあげる姿が見られる。優しい心が育っている証拠だ

 このときの口調は決してやさしいものではない。音声でお伝えしたいくらいだが、むしろ厳しさを感じさせる口調だ。しかし、子どもたちは首を横に振り、再び力を振り絞る。さらに、冒頭で紹介したような仲間たちの応援が加わり、よろけながらも前を向いて歩き始める。

 そして、幼稚園に無事到着すると、自分たちで掘った芋がたっぷりと入った温かい味噌汁を先生につくってもらい、お腹がいっぱいになるまでそのおいしさを味わう。この味噌汁は大人がいただいてもとてもおいしいが、本当のおいしさがわかるのは自分でやり遂げた子どもたちだけだろう。

 「子どもたちに“自分の行動に責任を持つ”ということを教えたいのです。芋は掘りたいだけ掘っていいことになっています。そして、尻もちをつきながら子どもたちは懸命に掘ります。この芋を掘るということだけでも、自然と触れ合うとか、収穫の楽しさを知るという教育的な意味はあるでしょうが、それだけでは娯楽になってしまう可能性もあります。自分で掘ったものは自分で持って帰るということまで含めて指導すれば、 子どもたちの中に“自己責任”という意識が育っていきます」(天野園長)

 また、子どもたちにあえて厳しい口調で接することにも理由がある。やさしく言葉をかけると甘えが出て、今の限界値を打ち破る力を引き出せないという。健気な子どもたちを見守る先生たちの胸のうちは愛おしさでいっぱいだが、心を鬼にすることで子どもたちは自分の限界を超えてゆく。

体感してこそ本物の語彙が身につく

幼稚園に到着すると、それまで厳しかった先生も、全身で子どもたちを褒める

 子どもたちが幼稚園で芋を降ろした後、先生たちは全身で子どもたちを褒めてやる。まるで教育者として背負っている重い責任を肩から降ろしたように、素に戻れるうれしい瞬間だ。

 「よくやったね。立派! 立派っていうのはこういうことを言うのよ」

 子どもたちにとっても、疲れ切った体を癒す最高の褒め言葉だろう。苦しくてもやり遂げた満足感はしっかりと体に定着していく。

 話は少し横道にそれるが、密着レポート第6回でも少し紹介したように、風の谷幼稚園では言葉をとても大切にする。人と人が心を通い合わせるために欠かせないものとして言語の指導を重視しており、表層的な言葉の意味だけを教えたりはしない。たとえばこの「立派」という言葉の意味だけを教えても、子どもたちには実感がわかない。そこで、体感値を伴うこのような機会に丁寧に指導を行う。その結果、子どもたちは実感の伴う新しい語彙を獲得していくのである。

 もちろん、言葉の教育は派性的な結果だが、身の丈に合った問題に立ち向かい、自己責任の意識を体に深く刻み込む「いも掘り」は、風の谷幼稚園では絶対に欠かせないカリキュラムなのである。


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