平和スタジアム構想
現在、新スタジアム建設に向けて動きはあるのだが、議論は紛糾している。行政が推す広島みなと公園案とサンフレッチェ広島が提案する旧広島市民球場跡地で二分する格好となっており、それぞれにメリット、デメリットがある。そんな中、サンフレッチェ広島のメインスポンサーである家電量販店チェーン株式会社エディオンの社長であり、サンフレッチェ広島の会長も務める久保允誉氏が、3月3日に記者会見を開いた。
地域経済の活性化、世界へ平和発信、そして広くスポーツ文化の発展を目的に、旧広島市民球場跡地に多目的使用が可能なスタジアム「Hiroshima Peace Memorial Stadium」(仮称)を建設するという。その中で大きく目を引くのが、スタジアムの形状である。収容人数が2000人から3000人少なくなるものの、スタジアムに開放部を設け、原爆ドームが見えるように設計するという。
会見で久保氏は、行政側の提案する広島みなと公園の新スタジアムでは、アクセスの問題などがあり、収支面で運営が困難と判断しており、「みなと公園に新しいスタジアム建設が決まった場合、サンフレッチェは、その新スタジアムを使うつもりはございません」とまで言い切っている。一見、強硬な姿勢を見せているようにも見えるが、県知事・市長・商工会議所会頭との四者トップ会談の開催を要請しており、責任ある立場で議論を深めていきたいという。
佐藤寿人選手は旧市民球場跡地について、「何より、市の中心部であんなに広い土地が何も決まらないままなのは、街にとって損失だと思います。近くのホテルから見ると、ホントに大きな空き地があるのがよく分かります。もったいないな、と思うし、さびしいな、と思います。色んな経緯とか関係があると思いますが、継続して街づくりができていないところが見えてしまう気がして、サッカースタジアムということは別にして、そこは無計画過ぎるのではないかな、と思いますね」と、今ある問題の本質を捉えている。
広島のアイデンティティの一つに『平和』があると思う。そして、スポーツが平和に対してできることの良さは、昨夏広島カープが8月6日に実施したピースナイターを見ても明らかである。サンフレッチェ広島の森保一監督は、「クラブワールドカップを3位で終われたということは、平和都市・広島を世界180ヶ国に発信できたと思います」と大会後の会見で話している。世界中でプレーされているサッカーには、野球以上に世界に訴えかける力があり、そして、それだけ責任感が増すことを意味する。
つまり、サンフレッチェ広島にとっては、原爆ドームが見えるスタジアムでプレーしているから平和を謳うチームであるということ以上に、平和に対しての行動が問われることになると思う。そして、平和に対して真摯に向き合うチームが本拠地とするスタジアムは、広島だけではなく、日本が世界に誇ることのできる世界で唯一のスタジアムになれるのではないだろうか。そして、世界のトップチームや選手からも、この平和スタジアムでプレーしたいというリクエストが届くのではないかとさえ思えるほどに、ここにしかない魅力があるように感じる。
スタジアムをどこに建てるべきかは、関係者による徹底した議論から、今後の街づくりや収支予測を踏まえて、実施されることを望むが、それよりも重要なことは、これから行政とサンフレッチェ広島が何を目指すかを共有していくことにあると思う。街づくりには長期的なプランがもちろん必要だが、佐藤選手が常に大事にしていると語ってくれた、『今どうするか』、それに、『今よりもどうしたいか』という二つの視点を忘れないように、建設的な議論を進めてもらいたい。
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