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メディアから読むロシア

2016年4月22日

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小泉悠 (こいずみ・ゆう)

東京大学先端科学技術研究センター特任助教

1982年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。民間企業を経た後、2008年から未来工学研究所。09年には外務省国際情報統括官組織で専門分析員を兼任。10年、日露青年交流センターの若手研究者等派遣フェローシップによってモスクワの世界経済・国際関係研究所(IMEMO)に留学。専門は、ロシアの軍事・安全保障政策、軍需産業政策など。著書に軍事大国ロシア』(作品社)、『プーチンの国家戦略』(東京道堂出版)、『「帝国」ロシアの地政学』(東京堂出版)。『ロシアの軍事情報を配信するサイト「World Security Intelligence」(http://wsintell.org/top/)を運営。

 シリア作戦が新型兵器の売り込みのためのデモンストレーションになっているのではないかという話は以前からあったが、こうした見方をロシア側の多様な声によって確認しているのがこの記事の面白いところである。たとえばシリア作戦でアルジェリアへの武器輸出が本格する経緯などはさすが現地紙と思わされる詳細さがある。

 ちなみにアルジェリアに初輸出されることになったSu-32爆撃機だが、これに続いてヨルダンも同機の導入を検討しているという報道が4月に入ってから出ており、なるほどシリア作戦の宣伝効果というのはそれなりにあるのだろう。特にハイテク兵器の運用が難しいとされる砂漠地帯で実際に高い運用実績を挙げたことが、中東・北アフリカ諸国への売り込み攻勢に追い風となっているのだと思われる。

 ただし、これも全て額面通りに受け取るわけにはいくまい。第一に、ロシアはシリア作戦の前から中東への武器売込みを強化しており、記事中でも触れられていたイラクとは、42億ドルにも達する大規模契約を2012年に結んでいる。エジプトに対しても、2013年のクーデターで対米関係が悪化するや素早く接近し、戦闘機等の納入契約を締結している。今後はイランへの大規模武器輸出や、紛争で沙汰やみになっていたシリアへの武器輸出再開も取りざたされているところである。アルジェリアは、同国が資源マネーで潤うようになった2000年代からロシアの上得意だった。

 したがって、シリア作戦は一定の宣伝効果を持ったであろうにせよ、それ以前から中東でロシアの武器はかなり売れていたのである。Su-32などはこれまで実戦経験がほとんどなく(2008年のグルジア戦争でごく実験的に実戦投入されたのみ)、輸出実績もなかったので、それなりのデモンストレーション効果はあったのかもしれないが、果たしてそれが60億ドルとか70億ドルといった規模であるかどうかはやや疑問がある。

第五世代戦闘機の共同開発を巡って
インドとの間にトラブル

 Su-35戦闘機も以前から中国が導入を希望していたものであり、インドネシアやヴェトナムもシリア作戦が始まってから急に欲しがり始めたわけではない。パキスタンへのSu-35輸出に至っては、記事中にあるとおり、伝統的な友好国であるインドとの関係にヒビを入れかねない。しかも買ってくれても精々6機(Su-35は1機100億ルーブルもするのでパキスタンの経済力ではこの程度が限界であろう)だという。ロシアは第五世代戦闘機の共同開発を巡ってインドとの間にトラブルを抱えており、パキスタンへの戦闘機売却話はこれに対するけん制、という可能性もないではない。

 また、サウジアラビア軍がS-400に関心を持っているという話もかなり割り引く必要があろう。以前の小欄でも取り上げたが、サウジアラビアはイランやシリアに対する支援を手控えさせるために巨額の武器購入をちらつかせるという方法を取っており、S-400の導入もその一環である可能性が高い(これまでもサウジアラビアが提示した武器購入話が実際の大規模契約に結び付いたことはない)。

 ロシアの武器輸出額はここ数年、年間150億ドル前後で推移しており、2015年度は146億ドルであったとプーチン大統領が明らかにしている。そこで問題になるのが、記事中である「情報源」が触れたドルとルーブルの為替レートだ。すなわち、ロシアの経済危機を反映してルーブルが暴落した結果、ドルやユーロなどの外貨建てて支払われる武器代金の価値が急騰しているのである。現在、ルーブルの対ドル・レートは5年前に比べて3分の1近くまで下落しているので、同じ10億ドルの武器を売っても、その10億ドルは従来の3倍の価値を持つ。この文章が、「契約を急げ」という調子で終わっているのも、ルーブルが底を打って回復に転じる前に外貨を受け取りたいということなのだろう。
 

  
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