――ツイッターなどの"半匿名性"によって、同じようなことを言う人だけがどんどん集まり、コミュニティー内の同調圧力が高まってカルト化するという話を聞いたことがあります。
開沼 「SNSによるママのカルト化」は非常に深刻な社会問題です。自分たちに都合のいいネタを提供してくれる自称ジャーナリスト・自称専門家を追い、攻撃対象を常に探し、教祖様の講演会を開き「お布施」を払う。その全てをSNSに上げて煽る。狭いコミュニティーの中で普通の人がぎょっとするような話で盛り上がりながら虚ろな「救済」を求めるという構造ですね。
社会学では「予言の自己成就」といいますが、自分で思い込んだ不幸を予言し続けることで、本当にその不幸が実現してしまう。あそこには二度と帰ってはいけないということを繰り返し言ってくれる教祖様に従属すればするほど、自分の感覚・社会関係が元々住んでいた地域や仲間から切り離され、本当に帰れなくなる構造が強化されていく。
自分たちは被ばくしたあの日以来体調が悪いんだと言い続けて、ゼロベクレル商法にはまって栄養の偏った食事と避難の経済負担を重ね、子どもにストレスをぶつけるから、本当に母子ともに心身の健康が悪化する。
行政とメディアの役割
解除のアナウンスを流す「場」
――ここまで膠着してしまった状況をどうすれば変えられるのでしょうか。
村中 個別の科学者同士の議論や学会の声明はもはや無力です。行政は、「積極的勧奨を控える」なんていう意味不明な状態のまま副反応をエンドレスに「引き続き調査」するのではなく、いい加減に決断しなければいけない。専門家委員会が繰り返し同じ結論を出し、WHO(世界保健機関)にこれだけ言われ、日本人の集団においてもワクチン接種と症状の因果関係を否定する名古屋市の調査結果があるのですから。
米国では、ワクチン政策を決定する組織と、それに対して意見を言う専門家委員会は別々になっています。専門家は専門家としての評価を言うまでが仕事で、政治決定は別の組織がやる。でも、日本では、大臣や行政がやるべき判断まで専門家委員会に委嘱しているような運用になっています。
開沼 原発事故でも、専門家個人が「政治家化」されてしまいました。政治決定の根拠を科学者が前面にたって言わざるを得ない状況に追い込まれ、いくつかの大きなコミュニケーションミスがあった際に、そこに責任と意思決定根拠が押し付けられた。専門家は政治・行政判断の選択肢を示すことはあっても、政治決定とそれに関わるコミュニケーションは政治のプロである政治家が前面にたつべきことだったでしょうし、いまもそうです。
――過剰避難にしても積極的勧奨の差し控えにしても、状況がわからないときに、まず安全サイドに立って判断したということですよね。であれば、状況がわかってきたら判断を更新していくべきではないかと思うんですが。
開沼 その通り。そこにつきます。専門家集団や政治・行政のあり方に問題があるのは事実でしょうが、世論やメディアの状況も早急に改善する必要があります。特にウェブにおいて、ノイジーマイノリティーに席巻されるのを放置せず、サイレントマジョリティーを可視化する「場」を作っていく。普通の人が、判断をするための前提知識を更新できる土壌を準備することが重要です。
村中 昨年12月、毎日新聞に東京大学の坂村健教授が「事態がわからないときに、非常ベルを鳴らすのはマスコミの立派な役割。しかし、状況が見えてきたら解除のアナウンスを同じボリュームで流すべき」と書かれていて、心から同意しました。専門家の多数が抱いている「相場観」をきちんと世に提示していく使命がメディアにはあるはずです。
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