Wedge REPORT

2016年6月3日

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木村正人 (きむら・まさと)

国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト。元産経新聞ロンドン支局長。米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員、慶應義塾大学法科大学院非常勤講師などを歴任し、2012年独立。近書に『欧州絶望の現場を歩く』(ウェッジ)。
 

 しかし、残留派につくと信じていたジョンソン前ロンドン市長と側近ゴーブ司法相に反旗を翻され、保守党の下院議員の半数近くがEU離脱を叫ぶ事態に陥った。特にジョンソン前市長は絶大な人気を誇る次期首相候補で、世論に与える影響は大きい。

 保守党支持者の過半数がEU離脱派。懐疑主義はいつの間にか保守支持層に広がった。その正体をつかむため、英国で最も懐疑主義が強い地域に向かった。

古き良き英国を体現する好人物は離脱派だった

地域によって割れるEU支持
(出所・オンライン世論調査のYouGov)
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 先の総選挙でファラージUKIP党首が議席獲得を目指した英イングランド地方南東部を取材したが、「懐疑主義の温床」と言えばイングランド地方の寂れた田舎町というのが通り相場だ。しかし、マイノリティーが人口の過半数を占める国際都市ロンドンの中に最もEUに懐疑的な地域があると知って驚いた。オンライン世論調査の大手YouGovによると、ロンドン北東部にある人口約24万6000人のヘイバリング区がそこだという。

 片っ端から区議にメールを送り、すぐに返事をくれたUKIP区議、フィル・マーティンさん(82)の案内で週末のヘイバリング区を回った。マーティンさんは18歳の時、「ナショナル・サービス」と呼ばれる兵役に就き、その後、英空軍のパイロットになったというだけあって、カクシャクとしていて、古き良き英国を体現する親切な好人物だ。EU離脱派は英メディアでは反移民、反イスラムの人種差別主義者か極右、ポピュリストとして描かれることが多いが、マーティンさんからそんな雰囲気は微塵も感じられない。

 娘2人を育て、10年前に妻を亡くし現在、一軒家に独り暮らし。4人の孫がいる普通のおじいさんだ。もともと政治に関わるつもりはなかったが、2014年5月の区議選にUKIPから立候補した。住み慣れた街の一軒家が集合住宅に次々と改造され、6~8人の移民が一気に引っ越してくるケースが急増していた。

 ヘイバリング区は、開発が抑制されてきた「グリーンベルト(緑地帯)」に囲まれた孤島のような地区になっているため、乱開発と移民の大量流入を免れてきた。昔ながらのイングランドの面影を色濃く残している。しかし、ロンドンの深刻な住宅不足を解消しようと、キャメロン政権下、グリーンベルトを造成した住宅開発が急ピッチで進められている。「私たちの知らないところで、どんどん街が変わっていくのを放置するわけにはいきませんでした」とマーティンさんは振り返る。

 11年の国勢調査に基づくヘイバリング区の報告書によると、白人の英国人はイングランド地方で平均80%、ヘイバリング区はそれを上回る83%。ロンドン全体の平均は45%。ヘイバリング区の変化を見ると、白人の英国人は01年時点で92%。わずか10年間で移民人口が急激に増えたことが分かる。ちなみにキリスト教徒の人口割合は66%、イスラム教徒はわずか2%だ。

 ヘイバリング区の犯罪発生率は、移民人口が多いロンドンの他地域と比べると格段に低い。このまま住宅開発が進んで移民が大量流入すれば、犯罪が増えるという潜在的な不安心理が横たわる。しかし実際にはロンドン警視庁との協力で夜間の犯罪発生件数は35%も減っているのだ。

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