6月23日に迫ってきた欧州連合(EU)残留・離脱を問う英国の国民投票は予断を許さない状況になっている。英財務省や経済協力開発機構(OECD)は、EUを離脱した場合、英国の各家庭は年に4300ポンド(約68万8000円)、最悪シナリオでは5000ポンド失うと警告した。
第二次世界大戦以来、「特別な関係」を結んできた米国のオバマ大統領からは「離脱したら英国との貿易交渉は後回しだ」と突き放された。これを受け、世論調査で残留派が離脱派を8ポイントリードしたと思いきや、離脱派はアッという間に息を吹き返した。なぜ、EU統合への懐疑が英国を覆っているのか。EU離脱派の正体とはいったい何なのか──。英国から報告する。
見誤ったキャメロン首相 保守党内で進む造反
ロンドンでは連日、シンクタンクや大学が主宰する討論会でEU残留派と離脱派が二手に分かれて喧々囂々の議論を繰り広げている。英イングランド北部で開かれた離脱派集会で与党・保守党のトリックスター、ジョンソン前ロンドン市長が登壇し、「英国の主権と民主主義を守るためEUから離脱すべきだ。キャメロン首相は残留を訴えるリーフレットを全戸配布して930万ポンド(約15億円)も無駄遣いした」と雄弁に語りだすと、会場の一部から「この地域に保守党は要らない」とブーイングが起きた。議論は日に日に過熱している。一方、キャメロン首相は野党・労働党、自由民主党の元党首と残留派の電話キャンペーンに参加して、結束を必死にアピールする。今、英国は2つに割れている。
EU離脱派を主導するのが英国の欧州懐疑主義だが、一言では説明できない歴史と広がりを持つ。ペスト(黒死病)の大流行や2つの世界大戦も欧州大陸から始まり、英国は大きな損害を被った。欧州経済共同体(EUの前身)加盟の是非を問うた1975年の国民投票では、欧州に仕事が奪われるかどうかが争点だった。ブリュッセルへの主権移譲に猛然と反対した保守党のサッチャー首相は欧州より対米関係を重視した。単一通貨を創設するマーストリヒト条約をめぐって同党のメージャー首相は92年に保守党内の造反に見舞われている。欧州大陸と英国の関係は愛憎相半ばする。そして、この四半世紀、保守党内でEU統合派と懐疑派は激しい火花を散らしてきた。
国民投票の実施を決断したキャメロン首相は懐疑派の正体を完全に見誤った。保守党内の懐疑派も、EU離脱を掲げ「極右政党」とも形容されるポピュリスト政党・英国独立党(UKIP)も国民投票を実施して世論を味方につければ抑え込めると高を括っていた。保守党内の造反があっても3桁ではなく2桁に収まると踏んでいた。