「港湾の近く、高速のインターチェンジに近い場所でまとまった土地があるなら、進出を考えてもよい」。不況の最中、企業誘致に苦しむ某県の担当部署にこんな問い合わせが入ってきたという。尋ねてきたのは、大規模なマルチ物流倉庫施設を所有・運営する外資系不動産企業だ。
商業圏に近接する巨大倉庫マンション
外資ファンドが席捲
(写真提供:AMB プロパティ ジャパン インク)
プロロジス、AMBプロパティコーポレーション、ラサールインベストメントマネージメント。いずれも米国に本社を置く不動産投資信託(REIT)の上場企業であり、世界規模で私募、公募資金による物流施設の取得、開発、保有、運営を活発化させている物流倉庫専門(ラサールを除く)の物流不動産投資の御三家だ。
「大規模マルチ物流倉庫といってもイメージし難いが、従来の倉庫が戸建て住宅なら、外資が所有する施設は大規模なマンション」。イーソーコ総合研究所の河田榮司社長は、大型マルチ倉庫をこう表現する。
大規模マルチ倉庫を1つのイメージで言えば、1万~2万坪という敷地面積に1階層当たり2000~4000平米超の倉庫スペースが、5~6階層積み上がった賃貸物流倉庫。各階層にはランプウェイと呼ばれるループ型の入出庫道路が整備され、エレベーターを使わずに平屋倉庫のような使い方が可能だ。延床面積は約15万~20万平米に達するわけで、ベタな比較で恐縮だが約4万7000平米の東京ドームが3、4個分積み上がった計算になる。
各階にはテナント方式でメーカー系から通販業者、3PL(サード・パーティ・ロジスティックス)と呼ばれる物流業者などが賃貸契約を結び、複数階層の借り切りや必要なスペースの区画を賃借する。暗い、狭いという従来の倉庫の概念を覆す開放型で福利厚生施設も完備した文字通りのマンション仕様なのだ。
「一棟当たりの建設費用は、100億~200億円超」(物流外資)と倉庫にしては巨額な投資規模。90年代以降、大規模流通を手掛けてきたダイエー、イオンなどが建設する倉庫への投資額が数億から大きいもので十数億円の規模というから、その額がいかに巨額かがわかる。
「延床面積が1万坪以上のマルチ倉庫は全国で約70棟稼働しているが、その60%程度は外資所有」。事業用不動産データを保有するシービー・リチャードエリス総合研究所の鈴木公二・シニアコンサルタントは、大規模マルチ倉庫の多くが外資系の所有と明かす。同社のリサーチによれば、約70棟の大型マルチ倉庫の内、首都圏には48棟が集中。その他は関西圏に12棟、中部圏に4棟と大規模消費地に近接している。こうしたロケーションには、入居企業のさまざまな事情が反映されている。